present 3

「なんかあった?また雄貴と喧嘩?」

『やぁね、あなたったら。私が電話かけたらすぐに雄貴と私が喧嘩したって言うんだから!』

「8割9割今までそうじゃなかった?」

『うっ…。志貴、あなたあの人に似てきたわね』

「え?恥ずかしがり屋のロマンチストに?どこが」


その言葉で烏間と生徒達は、あぁお父さんの話をしているんだなと笑った。大方似てきたなとでも言われたんだろう。



『似てるわよ。その恥ずかしがり屋のロマンチストなところは似てないけどね』

「…あぁ、安心した。そこ似てるって言われたらどうしようかと」

『そこじゃなくてね。たまに冗談を言うところとか、さりげない優しさとかよ』

「………」

『あの人もね、私が落ち込んだ時とかに普段言わないくせして冗談言うのよ。で、いつもさりげない優しさを私にくれたわ。志貴のそういうところを見ると、あぁあの人に似てるなぁって思うのよ』

「…そっか。まぁ、親子だからな」

『ふふ。あぁ、でね。実はさっき荷物が送られてきたのよ』

「荷物?誰宛?」

『私宛なんだけど、差出人が書いてなくて…』

「変なものだったり、危険なものだったら駄目だから置いといたら?この仕事済んだら実家に帰って確認してあげるから」

『それがねぇ、開けちゃったの』

「…は!?開けた?」


声を上げた柴崎に皆がびっくりして柴崎を見る。それに気付いて、手でごめんと返す。


「差出人も書かれてない荷物普通開ける?」

『開けちゃったものは仕方ないじゃない。それでね、その中身が…花なのよ』

「は…?」



思わず止まる足。それに気付いて、隣を歩いていた烏間も止まり振り向き、先を歩いていた生徒達も烏間と柴崎が止まったことに足を止めて振り返る。


「柴崎先生どうしたのかな?」

「さぁ、なんか立ち止まったな」

「電話先のお母さんと何かあったのかな?」






「なんの花…?」

『サルビアの花と、スターチスの花よ』

「っ!」



そんな訳ない。都合が良すぎる上に間が良すぎる。



「…色は?」

『色?色は…サルビアは紫で、スターチスはピンクと淡紫ね。懐かしいわねぇ。この花とこの色。よくあの人がくれたのよ』

「…あぁ、知ってるよ…」


手を目元に当て、覆うようにした。



『あら、じゃあ志貴が贈ってくれたの?なんだ、じゃあ差出先のところに名前書かないと。しっかりしてるのに抜けてるのねぇ』

「……違うよ、母さん。俺からじゃない、その花は」

『あら、じゃあ誰からかしら』



ゆっくり目元から手を離す。一方の会話だけで、その場にいた者には分かったんだろう。驚いた顔をしている。




「……父さんからだ」

『え…?』

「俺に言ってた。沖縄に一緒に行って海を見たかったって。花も贈りたかったって。…それきっと父さんからだ。12.3年振りの、プロポーズなんじゃないの」

『…っふ…うぅ…っ…』

「良かったね。父さん、浮気してないみたい。まぁ、出来るような性格してなかったけど」

『…っ…あ、当たり前よ…っ!あの人は…、ふっ…私がいないと、なーんにも…っ、出来ない人なんだから…!』

「…そうだった。…ねぇ、泣くの我慢してくれない?」

『もー!何よ!その言い方!…うぅ〜…っ』

「そっちで一人で泣かれたら、こっちでいる俺が父さんに怒られるんだよ。何泣かしてんだって。帰ったら実家に行くし、気が済むまでそばに居てあげるから。その時に泣けばいい」

『約束よ!絶対に帰って来るのよ!じゃないとお父さんに言い付けるんだからね!』

「はいはい。じゃあ切るよ。あー、後、雄貴とは喧嘩しないように」

『しないわよ!』

「ならいい。じゃあまたね」

『…またね、志貴。気をつけて帰って来るのよ』

「分かってるよ」


耳から携帯を離し、切る。



「…ちゃんと、届いたんだな」

「…本当に、ロマンチストだね。うちの父親は」


見ていたのか。知っていたのか。予期していたのか。こんなことがあるなんて。驚いた。沖縄に来て、海に花を投げて、それから少しして実家の母の元に花が届くなんて普通あり得るだろうか。


「どんな手使ったのかね」

「さぁな。…でも、お前の父親ならやりそうだ」

「ロマンチストだから?」

「…かもな」

「ははっ、なにそれ」


向けてた視線を烏間から生徒達に向ける。そしてギョッとする。


「え、な、なんで泣いてるの?」

「うぇぇぇー!泣けるー!その辺のベタな小説より泣けるぅー!」

「せ、先生の、お父さん…っカッコいいです!」

「俺も、俺もそんな人になりたいぃぃぃ」

「そんな人の子だから柴崎先生イケてるんだ…っ!」

「中村の…っ、言う通りです…っ!」

「ふぇぇ…っ!感動するよぉ…!」

「…ふっ、うぅ…良い…話…っ」

「あーあー、泣かないで泣かないで!目が腫れるしホテル戻ったらあれに何言われるか…」

「本当に昨日といい今日といいお前はよく人を泣かせるな」

「だから好きで泣かせてるんじゃないってば!しかも今回のは俺じゃなくて父さんのせいだろ?」

「間接的で行くと、柴崎が泣かしたことになる」

「酷い濡れ衣だな、それ」


その後泣き続ける生徒達をなんとか泣き止ませて、ホテルに戻る一行。着けば殺せんせーがいて、目の腫れている生徒達を見て烏間と柴崎に詰め寄るのだった。



「柴崎先生!烏間先生!どういうことですか!」

「俺は無関係だぞ」

「烏間!?」

「どういうことですか、柴崎先生」

「え"…。これは、俺が泣かしたんじゃなくて、死んだ父親が泣かして…」

「…え、珍しいですね。柴崎先生が冗談言うなんて」

「冗談じゃないから!」

「え、じゃあ嘘ですか?それこそ珍しいですね」

「嘘でもないから!なんなら生徒達に聞けば分かる」



そして殺せんせーは聞いてみた。その中で支離滅裂だったのは前原と三村だった。


「先生の…お父さんが!死んで!泣かして…っ!でも、花束が!」

「お父さんが…っ!お母さんを…っ!花束で!泣かして…っ!」






「…どう、分かった?」

「えぇ。支離滅裂なのは分かりました」

「それじゃ意味ないだろうが…っ!」

「あ、後。お父さんが泣かした。というのも分かりました」

「…つまりそういうこと」

「なるほど…そういうことでしたか」

「お前、それで分かるのか」

「分かりますとも烏間先生。つまり、お父さんが花束を泣かしたんですね!」

「全然分かってない!だから、俺の死んだ父親が変な小細工したそのせいで生徒達が俺の泣いてる母親につられて泣いた!分かった!?」

「…柴崎先生、実の母親を泣かしたんですか!?」

「…あのさ、お前って頭良いんじゃないの?超生物なんじゃないの?俺のことおちょくってる?」

「…少し」

「…烏間、こいつ殺すのに手貸して」

「それなら幾らでも」

「にゅや!?じょじょーだんですよ!!分かってますよ!?柴崎先生の亡きお父様の粋な計らいで生徒達はもらい泣きした!そうでしょ!」

「分かってんなら最初からそう言え!」


殺せんせーを蹴って、柴崎は背中を向け歩く。生徒達はホテルの中に入ったようだ。烏間も柴崎の後に続き、隣に並ぶ。


「…お前は泣かなくて良いのか?」

「…泣かないよ」

「…泣けない、の間違いじゃないのか?」

「……」

「…はぁ、不器用だな」

「うるさい」

「柴崎にとったら、先に母親を思う存分泣かせてからか」

「……」


じと目で烏間を見る柴崎。それを別に何てことなく受け止める烏間。


「……泣かせてきたら、俺のとこに来い」

「…いいよ、別に」

「泣かせてやるから」

「〜っ」

「お前は不器用だからな、そういうことに関してはな。母親や弟、生徒の涙を受け止めるなら、誰がお前の涙を受け止める」

「……烏間」

「なんだ」

「……明後日、呑むから」

「…ふっ、了解」


クスクス笑う烏間に、柴崎はバシッと背中を叩いたのだった。火傷しているのでそんなに強くは叩けず、烏間にそれさえも笑われた。(大方可愛い抵抗だと思っている)

その光景をロビーにいる生徒は驚いた顔で見ていた。


「え、烏間先生が…」

「笑って…る…?」

「柴崎、先生が…」

「怒り照れて、」

「背中を叩いて、る?」

「「「「(何があったんだ!?)」」」」


事情を知らぬ生徒間では小さな七不思議となっていた。

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