そして授業が終了。校庭に散り散りバラバラとなっていた生徒達が集まってくる。
「…あ、当てられたんだ。烏間」
「あぁ。き…「ジャスティス」にな」
「あぁ…「ジャスティス」ね」
「ジャスティス」基木村は機動力に長ける。背後からの攻撃が速く、素早い。
「…お前も当たったのか」
「「中二半」にね。中距離からの狙撃。しかも狙いにくい足元を。やるね」
それを話すと烏間も感心したように声を出す。
「ほぉ…、足元か。狙いにくい場所を敢えて狙うとはな」
「でしょ」
「ねーねー「柔和人間」先生」
「ん?」
カルマが柴崎のもとに寄ってくる。ポケットに手を突っ込み、脇にライフルを挟みながら。
「あの時さ、どうやったら確実に足狙える?」
「そうだね…。中距離から狙った場合だよね?」
「うん」
「中距離狙撃の場合、ライフルのスコープが唯一の視界。長距離狙撃にも言えるけどね。どちらとも共通することは、視界が狭い。近距離射撃は視界が広い分狙いやすい。けど、危険でもある」
「広いからこそ相手も狙ってくる。ってことだよね?」
他の生徒も聞きたいのかチラホラとカルマと柴崎の元に集まる。
「そう。中距離狙撃の場合はいかに相手に悟られず狙いを定めて標的を撃ち抜けるか。微妙な距離だからこそ気付かれ易く、また気付かれにくい。その中で撃ち抜くには、予測すること」
「予測?」
「そう。狙う標的の情報をまず頭に入れる」
人差し指でこめかみあたりを突く。
「利き足はどちらか。踏み込む時に力が入るのはどこか。癖は何か。それらを踏まえて予測する。例えば、ライフルを持って狙撃スタイルに入っているなら、そこに標的が来ることを既に予期している。場所の特定。そこがまず第一段階」
「第一段階…」
「第二段階は神経を尖らす。スコープの先に見える僅かな視界の中、そこに映る全てに目をやる。最終段階は、狙う標的が現れたその瞬間に」
「撃つ」
「その通り。ライフル弾は拳銃より速いけど、1秒が命取り。今赤羽くんが持っているそのライフルのモデルはVSS(ベーエスエス)。中距離・近距離向きの狙撃銃。遠距離には不向きなんだ」
「へぇ、そうなんだ。実弾ならどんな弾使うの?やっぱ速い?音速?」
「VSSの弾は9×39mm弾。特殊な弾で、ライフル弾でありながら、銃口初速は音速を超えないんだ。でも、衝撃波が発生しないからソニックブームによる断続的な音波を生じない」
「ソニックブーム?」
なんですか、それ?と速水が聞く。
「ソニックブームっていうのは、超音速飛行により発生する衝撃波を生む、大きく轟くような大音響のこと。ほら、ドラマや映画で聞いたことない?戦闘機が飛んだ時の大きな音」
「あのドーンッて音ですか?」
「まぁそれ。銃も撃てば大きな音が鳴る。一発目で失敗すれば、手練の相手には場所を見抜かれる。まぁ、狙撃距離や撃ち抜かれた場所を見れば、狙撃ポイントはある程度確定できるんだけどね。でも、その危険性を少なくする為にも音を出さないんだ。だからこそ、近距離・中距離向きの銃」
なるほど…と頷く生徒達。カルマは今の話を聞いて興味が湧いたのか、柴崎にまた質問する。
「じゃあさ、長距離狙撃の一番記録に載る狙撃銃とかあんの?」
「あるよ。えーっと…なんだっけな…。Barret M82A1だったかな」
「へぇ!やっぱあるんだ。撃ってみたいなぁ」
「でも使うのは本当に注意ね」
「?どの銃も注意しなきゃいけないんじゃないの?
「そうなんだけど…。何も知らずにその狙撃銃で、例えば1kmや2kmなんていう距離から狙撃した場合…」
「「「「した場合?」」」」
「上と下がパーン。…なんて遠い昔の報告書類書に記載されてるのをアメリカで見たことあるから、本当気を付けて」
「「「「っ!!?;;;」」」」
「まぁ扱うにはそれ相応の経験と知識とかが必要だから、軍人にならない限り使う時なんてないと思うけどね」
ゾゾゾっと顔を青くした生徒達に柴崎は苦笑い。自分もその資料を文字でだか見た時はゾッとした。強ち画面の向こう側だけでの話じゃなかったなと。
それを見ていた殺せんせーと烏間。
「いやはや…。柴崎先生はとても詳しいですねぇ」
「あいつの趣味、何か知ってるか?」
「にゅや、趣味ですか?…そうですねぇ…読書とか?」
「も、あるが…。ナイフ管理に銃の照準だ。特に、射撃能力が高い。故に狙撃銃については詳しい」
「なるほど〜。だからあんなに詳しいんですねぇ。……烏間先生」
「なんだ」
「カルマくんと千葉くんと速水さんに揉まれですよ、柴崎先生。宛らパンに挟まれた具ですね、あれは」
「?;;」
向けば柴崎の話に興味を持ったカルマに後ろから抱き付かれており、千葉と速水が腕を掴んでもっと教えてくれとせがんでいるのが見て取れる。
「赤羽くん、締まってる、腕緩めて」
「先生細くない?もっと食べなきゃ」
「柴崎先生、立っての射撃なんですが…」
「あぁ、それは…」
「座って撃つ時は何に注意すればいいですか?」
「その時はね……って本当に締まってるから、苦しい」
「ふふふ、」
そしてみんな教室に戻ってきた。
「…で、どうでした?1時間目をコードネームで過ごした気分は」
「「「「なんか…どっと傷付いた」」」」
「そうですかそうですか」
ポニーテールと乳だったり、すごいサルだったりと、心を傷付けられたのだった。
「殺せんせー。なんで俺だけ本名のままだったんだよ」
「今日の体育の訓練内容は知ってましたから。君の機動力なら活躍すると思ったからです。さっきみたいにカッコよく決めた時なら…「ジャスティス」って名前でもしっくりきたでしょ」
「……うーん…」
腕を組み、なんだろな、どうだかなと言った顔をする木村。
「安心の為に言っておくと木村くん。君の名前は比較的簡単なや改名手続きが出来るはずです。極めて読みづらい名前でありわ君は既に普段から読みやすい名前で通している。改名条件はほぼほぼ満たしています」
「そうなんだ!」
「でもね、木村くん。もし君が先生を殺せたなら…世界はきっと君の名前をこう解釈するでしょう。「まさしく正義(ジャスティス)だ」「地球を救った英雄の名に相応しい」と。親がくれた立派な名前は正直大した意味はない。意味があるのはその名の人が実際の人生で何をしたか。名前は人を造らない。人が歩いた足跡の中にそっと名前が残るだけです」
そう。名前はその人を特定する謂わば名札のようなもの。区別するものだ。名前に価値があるのではなく、その人の成したものに価値がある。
「もうしばらくその名前…大事に持っておいてはどうでしょう。少なくとも暗殺に決着がつく時までは…ね」
「…そーしてやっか」
木村の顔はどこか腑に落ちたようだだった。
「…さて、今日はコードネームで呼ぶ日でしたね。先生のコードネームも紹介するので…以後この名で呼んでください。「永遠なる疾風の運命の皇子」と」
キラッ。と音がしそうな顔で笑い、黒板にコードネームを書いた殺せんせー。生徒達の額には青筋が立っている。そして一斉に物を投げたり銃を出して撃ったりした。
「1人だけ何スカした名前付けてんだ!!」
「しかもなんだそのドヤ顔!!」
「にゅやッ!ちょ、いーじゃないですか1日くらい!!」
この後、「バカなるエロのチキンのタコ」と呼ばれた。
「は?「永遠なる疾風の運命の皇子」?」
「あ、柴崎先生違います。「バカなるエロのチキンのタコ」です」
「あぁ、そっちの方がピッタリだね」
「でしょ!1人スカした名前なんて付けさせないんだから」
「良かったな。愛しの生徒に良いあだ名つけてもらえて。「バカなるエロのチキンのタコ」」
「やめてぇぇ!柴崎先生ーー!!」
「1日あだ名で呼ぶんだろ?嫌ってほど呼んであげるから」
「カルマくん化しないで柴崎先生!!お願い!!」
「「バカなるエロのチキンのタコ」、「中二半」に失礼だよ。あと、ちゃんと今日はあだ名で呼んであげなさい」
「心に深く刺さる…っ!!!」
「楽しんでるね、先生」
「うん、凄くね」
その日1日、生徒からも先生からも弄られ続ける殺せんせー、基「バカなるエロのチキンのタコ」だった。
※参考資料、wikipedia・pixiv百科事典
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