Itona 3

「どう?解いてみる?」


聞いてみれば、少しだけ問題と柴崎を交互に見てからまた小さく頷いた。それを見て、柴崎はじゃあおいで、と手招きをした。




「はい、チョーク」

「…もう書いていいのか」

「いいよ」


チョークを持ったイトナは躓くことなくサラサラと答えを書いていく。引っ掛けにも囚われず、休む事なくその手は動く。


「…できた」

「うん、正解」



2問とも共に正解だ。それを見た生徒達は口々に凄いと言う。



「イトナすげぇな!」

「この問題引っ掛け多いのにスラスラ解くなんて!」

「…別に、そんなに難しくない」


顔を背けてそういうイトナ。




「イトナくんは逆にこういう問題の方が得意そうだけど、違う?」

「…得意だ」

「だと思った。簡単な問題ほど難しく考えてる傾向があるから。でも良くできたね、偉いよ」



頭をポンポンと叩くとイトナは俯いた。身長差があるため、柴崎からイトナの表情は見えない。その点前の席の生徒達からは目線的に見えないこともないのだ。



「イトナ…、もしかして照れてる?」

「!」



岡野の言葉にイトナは肩をビクッとさせた。まだ顔を上げない。目があちらこちらへと移動する。



「(照れてる)」

「(照れてるわね)」


磯貝・岡野は心の中で言う。2人は教卓の前なので良く見える。




「…まえ…」

「?」


ボソッと何かを言ったイトナ。けれど聞き取れず、柴崎は首を傾げてイトナを見る。



「な、名前…」

「名前?」

「…なんて、言う」

「……あ、俺?」

「…そうだ」



そういえば言ってなかったな、と思い、イトナの視線に合わせて屈む。


「柴崎だよ。よろしくね、イトナくん」

「下は?」

「下?…あぁ、下は志貴だよ」

「、よろしく、志貴…さん」

「え、あぁ、うん、よろしく…?」



あれなんで下?とは思うけど、そこは聞かないことにした。なぜなら、聞いても「?」と首を傾げられてこちらが妥協するしかないとなるからだ。



「イトナが柴崎先生を下の名前で…!」

「私達だって呼んだことないのに…っ!」

「何ヶ月ももう一緒にいる俺たちを追い抜かして…」

「何段もすっ飛ばして越えていった…!」

「呼びたいなら呼んでもいいけど…」

「「「「いえ!大丈夫です!(今更呼び方変えるなんてなんか恥ずかしい!)」」」」

「あ、そう…?」


別に強制なんてしないからどっちでもいいけど、なんて思う柴崎。そして授業が終わり出ようとしたが…




「えー…、どうかした?」

「……どこ行く?」

「教員室、だけど…」

「ここには居ないのか?」

「授業終わったしね」

「……………」

「……;;」

「「「「…………;;」」」」


扉の前に立つイトナ。その前に立つ柴崎。それを見守る生徒。帰りたい。けど帰れない。さてどうしようか。その時だった。扉が開いたのは。




「シバサキー。って、あら。なにこの子」

「堀部イトナ。今日から登校してきた子」

「あぁ…この子が。って、そうじゃなかったわ。シバサキ、ちょっと聞きたい事あるのよ。来てくれない?」

「それはいいけど…」

「けど…なによ?」



イリーナと柴崎の間に立つイトナ。イトナの視線はイリーナだ。イリーナもその視線に気づきイトナを見る。



「なに?なんか言いたげね?」

「お前は志貴さんのなんだ?」

「なにって…ってか志貴さん!?なんであんた名前で呼んでるのよ!」

「別に呼んだらダメなんて言われてない。だから呼んだ」

「私だって呼んでないのよ!?」

「なら呼べばいい」

「〜っ!あんたは簡単に言ってくれるわね…っ」





「立ち位置的にはイトナが挟まれてるんだけど…」

「会話的には柴崎先生が挟まれてるな」

「続々と増えるね、壁という名のライバルが!」

「不破さん何でそんなに嬉しそう?」







んー…と悩む柴崎。帰りたいのに帰れない。一枚の壁が二枚に増えた。より分厚くなって。



「(烏間来てくれないかな…)」


そんな事を考えていると、教室の後ろの扉が開いた。




「柴崎、少し良いか」

「烏間、タイミング良いね。救世主」

「は?」

「何でもない。今行くよ」



烏間の元へ行く前に、生徒たちにあの2人よろしくね、と頼んで部屋を出ていった。



「頼まれたのは良いが…」

「さてどうする?」

「まず気付いてないよね」

「気付いてないね」





「もー!あんたは良いの!私はシバサキに用が……って、あら、シバサキは?」

「…いない」






「今気付いたな」

「だね」



どこへ行ったのか、どこへ消えたのかと思う2人に生徒達は笑いながら真相を伝えた。



「烏間先生が連れてったよー」

「なんか用あったみたいだし」

「2人とも気付いてなかったみたいだから俺ら任されちゃったよ」

「2人をよろしくねって」

「教員室に行ったかもよ?」

「私が先に用事あったのに!カラスマのやつ!」

「…………」

「イトナ落ち込むなって!柴崎先生なら体育の時にも会えるし!」

「…分かった」

「…懐いたな、イトナ」

「完璧ね」

「頭ポンポンで落ちたか」















「防衛省の方に、今までのシロに関しての事を報告しようと思ってな」

「なるほど。生徒を巻き込む行為は、あれが責任を感じて去る可能性があるから」

「あぁ。…それは避けなければならない。必ず殺す確信がないなら、謹んでもらうべき行為だ」

「上も納得するよ。なんせ、殺す事を目的としているのに、その対象物が消えてしまうなんて最悪は阻止したいだろうしね」



生徒達に暗殺をしてくれとは頼んだ。だが、その暗殺の為に危険な場へ巻き込む事は非常に由々しい。そしてそれは殺せんせーも望んではいない事。暗殺対象が望まない事を第三者がすれば、これ以上の危険が暗殺者に及ぶ前にと姿を晦ますことも視野に入れなければならない。



「危険な芽は摘むべきだ」

「あぁ」




確実に殺るなら、それ相応の場、且つ力が必要不可欠なのだ。



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