それはリドルが先生に呼ばれて席を外しているときだった。


「・・・というわけなんだけど」

「すっごくいいと思う」

 私は前にいる六人の男子生徒たちに向って了解したと微笑んだ。それを見た彼らも目を合わせあってにやりと笑う。

「じゃあ明日、さっき言ったとおりの手はずで」


 ひらひらと手を振って彼らを見送り、来るべき明日に想いを馳せた。



 それは、私達の関係を知っている数少ない人の一員の、リドルがよくつるんでいる友人らが、スラグホーン先生が呼んでいるとリドルに伝え彼を追い出したことから始まる。(事実、スラグホーン先生はリドルを探していたようだったけど)

 『そういう』雰囲気だったのをぶち壊されたリドルはあからさまに舌打ちをし、いらいらとした様子を隠しもせずに談話室のドアから出て行った。

 苦笑しながらそれを見送り、私も寮に戻ろうと腰を上げた。
 しかし、すぐさま目の前にリドルの友人たちが立ちはだかってきてそれを阻まれた。


「●●ちゃん、まあ座って」

「え、ちょっと・・・!」

 肩を上からぎゅっと押されてまたソファに無理矢理座らされた。

 見上げると、大の男六人という大人数から見下ろされ、ひどく居心地が悪くなった。

 私はリドルとは関係があるが、彼らとはほとんどといっていいほど関わりが皆無であった。前にリドルが私に、遠くにいた彼らを一人ひとり指差しながら名前の紹介をしたけれど・・・名家も名家ぞろい。レストレンジやらブラックやらマルフォイやら・・・。

 しかも彼らの中にはなぜか先輩もいて、なぜリドルがそんな人と一緒にいるのかたまに疑問に思うのだけど。

 傍目から見てもリドルを崇拝してると見える彼らに、にやにやとした顔を向けられては落ち着いてもいられない。


 ま、まさか、お前なんかリドルにつりあわねえとかいって脅されたりとか・・・。

 身を固くしてびくびくとしていると、彼らの中の一人が困ったように笑った。

「別に取って食おうなんて考えてない。お前に何かしたら後が怖いからな」

 そう言っておどけたように肩をすくめた。周りの人たちもその様子を見て笑い出した。
 私も、微妙な気分で愛想笑いを浮かべる。

 じゃあ何だろう。
 直接聞くのは怖くて、控えめに彼らの顔を見つめた。なかなか察しがいいようですぐに私の視線に気がつきまた何かを企んでいるかのような含み笑いを浮かべた。

「●●ちゃん、明日は何月何日?」

 もったいぶるような口ぶりにじれったさを感じなが明日の日付を頭の中で追っていく。

「確か・・・四月一日?」

「そう!」

 答えた途端にびしっと指を差されて本気でびっくりした。


「明日は四月一日!一年に一回、『どんな』嘘をついても無罪放免とされる日」

 『どんな』のところが変に強調されて気になったが、それ以上に、彼らの言わんとすることを悟り始めて、無意識のうちに苦虫を噛み潰したような表情になるのがわかった。

「まあまあ、まずは話を聞いて」

 私が今にも逃げ去ってしまうとでも思ったのか、どうどうと馬のように宥められる。実際逃げようと思ったのだけど・・・。


「知っての通り、リドルは俺たちのリーダーだ。何を考えてるかわからないし、正直怖い」

「でも、一年に一回くらいの所業くらいは許されるとは思うんだ」

「しかも今年は●●ちゃんがいる」

 もう誰が今口を開いているかわからない状況で、自分の名が指された。なぜ私。

「俺らがリドルに嘘のひとつでもつくのを想像してみろ。笑いながら何してくるか想像しただけで・・・」

「まあ・・・想像はできますけど」

 非常に簡単に。
 しかしそれとこれとあれと、私に何が関係があるんだ。首を傾げているとようやく核心に触れたことを言ってきた。

「つまり、俺らが冗談でも嘘をつくと万死。でも●●ちゃんは違うだろ?拳の一発や二発、もしかしたらマジで無罪放免!俺たちは一回くらいリドルのあの目をカッと開かせたいんだ!」

 怒りでカッと開くと思うけど。

「一発や二発って・・・あれすごく痛いんですけど」

 とりあえず、彼らが言わんとしていることはわかった。
 ストレス発散したいから私に罪をかぶってくれと・・・。

「あー、無理です」

 そういうと、なんで!!と騒がれた。

「なんでもかんでもありません。私、リドルに嘘つかないって約束させられてるんです」

 その嘘がばれたときの彼の般若のような形相が容易に想像できる。自らそれを犯すようなことはできるだけしたくはない。


「・・・まあそんなことだろうとは思っていたよ。でも●●ちゃんだって見たいだろ?」

 彼は内緒話をするかのように、私の耳に唇を寄せた。

「リドルの間抜けな、カ・オ」


 間抜けな、顔。あのリドルの間抜けな顔。一度見れればどんなに気持ちがいいことだろう。


「・・・・・、計画は?」

 そう言うと彼らはニヤリと笑った。

「計画は簡単。●●ちゃん、君にちょっと行方不明になってもらう」

「私?」

 また私か。
 なぜ、と聞く前に彼らが口を開いた。

「なんたって、リドルのあの過保護っぷり。見てるこっちが恥ずかしくなるくらいだぜ。半日も●●ちゃんの姿が見えなければ嫌でもイライラするに決まってる」

 私は別に今までにリドルが過保護だと思ったことないんだけど、第三者から見てそう思われていると思い知らされて顔が熱くなった。

「●●ちゃんにはただ一日、寮に引きこもっていてくれるだけでいい。男子は女子寮には入れないから部屋に乗り込んでくるっていう心配もない」

「その他のことは俺らが準備してるからそっちは気にしなくていいから」

「同室の友達にも事情を話して、軽く共犯になってもらえばいい。そっちのほうが変なボロを出さなくてすむしな」

 次々と出された情報を必死に飲み込みながら整理をしていく。今日寮に帰ったら早めに釘を刺しておこう。


「んで、ネタ晴らしは明日の夜。食事の後、俺らがリドルが部屋にいるようにしておくから、●●ちゃんが乗り込んで、おしまい」

 精密な作戦とはいえないけど、気休めにする悪戯ならこのくらいで十分だろう。相手がリドルであることを忘れて、私は満足げに頷いた。


 その後二、三言彼らと言葉を交わした後に、一人が時計を見やった。

「そろそろリドルも帰ってくるだろうから、俺らは部屋に戻るよ」

 確かに、リドルに私たちが急に打ち解けたように話をしているのを見られるのは、いい判断ではない。

 ぞろぞろと男子寮の階段に向う様子を見届ける。


「明日できない分、今夜いちゃいちゃしとけよー」

「余計なお世話です!」



 帰ってきたリドルは酷く不機嫌で。どうやらどうでもいい話を延々と聞かされたらしい。

 加えて、彼が私にキスをしようとしたときに談話室の向こうから中に入ってこようとしている人の気配があったおかげで、その日は私達二人も解散となった。どうみても彼のイライラはマックスを超えていた。短気だなぁ。

 去り際に、入ってきた寮生に聞こえないように、リドルにおやすみというと、ずいぶんの間があった後におやすみと返してくれた。返事は期待していなかったから嬉しかった。


 自分の部屋に入ろうとした私の耳に、向こうのほうでドアが壊される勢いで閉じられる音が聞こえて思わず苦笑してしまった。

 彼と同室の仲間達はとばっちりを受けていないだろうか、なんて考えながら、戻ってきた私に冷やかしを入れてくる友人らをあしらった。


 あの機嫌で明日の作戦はうまく行くのかと心配になりつつ、なるようになれと開き直ってしまった自分もいて、私は同室の友人に明日のことを説明すべく大げさに彼女らに招集をかけた。




 昨日はえらい目にあった。スラグホーンのおかげで貴重な時間が随分削られてしまったし、ようやくゆっくりできるとおもったら余計な邪魔が入るし。

 こんなことなら●●と変な約束なんてするんじゃなかった。別にいいじゃないか。僕たちの関係なんて堂々と知らしめてやればいいのに。


 昨日は同室のやつらにちょっとだけ当たってそのまま寝た。明日の朝食は●●の横をキープしよう。・・・と思ってたのに。

 広間に入ってすぐさまスリザリンの寮のテーブルをざっと見回す。

「・・・」

 ●●の姿は見えない。どうして●●の友人達はいるのに●●はいないんだ。

 彼女達の元へ行って●●のことを聞き出したい衝動に駆られたけどそこは自分を抑えた。


 スリザリンの適当な席に座ると、どこからともなく女生徒数人が近づいてきて挨拶をしてきた。それに微笑んで返すと彼女達は頬を赤らめ、こそこそとお互いに言葉を交わした後にまた僕と向かい合った。

 ネクタイをちらりと見ると青。レイブンクロー生か。おそらく年下。

「あ、あの、よかったら・・・お隣いいでしょうか・・・?」

 めんどくさいな。

「・・・」

 思わず口が滑ってしまいそうになり、あわてて口をつぐんだ。そのせいで彼女の目を無言で睨むという結果になってしまった。肩をびくつかせてしまった彼女達に、何事もなかったかのように微笑んで申し訳なさそうに眉を下げてみせた。


「申し訳ないけど、それはお受けできないよ」

 傷ついたように目を見開く女生徒たちが走り去ってしまう前に、素早く口を挟む。

「君達はレイブンクローの生徒だろ?レイブンクローの君達がスリザリンの場所にいては君達の体裁が悪くなってしまう・・・」

 だから早く自分の寮に帰ってくれ。
 彼女達は目を合わせて残念そうに、でも素直に受け入れたように頷いた。

 控えめに手を振りながら去っていく彼女達に僕も手を振り返し、彼女達が僕から目を離してから手を振るのを止めた。


「・・・」

 朝食に集中する前に、一度、人が出入りしている入り口を盗み見た。視線の先に僕が探した姿はない。


 僕が朝食を終えても●●は姿を現さなかった。
 広間にいつまでもぐずぐずといるのもおかしいのでさっさとそこを出る。

 廊下を歩くと知らない生徒数人に声をかけられた。談話室に●●がいないか探しに行きたかったからそれはすごく邪魔なもの。


 まっすぐに談話室に向うのに、かかる時間の三倍かけてようやくそこにたどり着いたのにそこにはやっぱり●●の姿はなかった。

「チッ」

 つい舌打ちが漏れて偶然近くを横切った男子生徒が驚いたように僕の顔を見た。目が合ったときににこりと笑んで見せると、『?』マークを浮かべて通り過ぎていった。


 談話室から出て次は図書室に向う。


 どうして僕が探してるのに出てこない。同じ寮で、彼女が起きる時間帯も把握しているのに。

 何か用事でもあるのか?いや、でも●●にとって朝食を食べるより大事な用事って。


 そこで変な考えが頭をよぎってそれをすぐさま頭から追い出した。そんなわけない。僕が避けられてるはずがない。まさか病気?


 はたと足を止める。
 これまで●●が病気になったってことはなかったはず。バカは病気にはならないらしいしね。

 ・・・とはいっても・・・。

 廊下の真ん中に立ち止まる僕を訝しげに見る視線を感じて、無理矢理足を動かし始めた。

 どうするか。図書室に行くか。寮に戻って●●が出てくるのを待つか。
 逡巡しながらゆっくりと歩を進めていると、背後からどたばたとこっちのほうに数人の足音と、聞きなれた声で名を呼ばれた。

「リドルー!!」

 思わず眉がピクリと動く。いつも大声で名前を呼ぶなって言ってるのにな。

 そう見えないように口をへの字に結び、立ち止まって振り返った。思ったとおり、向こうからいつものメンバーのうち三人が走ってきた。
 そいつらは僕の前まで走ってくると、とりあえず来い!と言わんばかりに僕の腕を掴んでまた走り出した。

「・・・なに?」

 理由を話される前に腕を無理矢理引かれるのが癪だったから少し低い声で言う。それでも彼らは足を止めなかった。

 いつもなら腕を振り払って杖を向けるところだけど、それは彼のある一言で却下となる。


「●●ちゃんのことだ」

「●●の?」

 眉間にしわがよる。

「だからちょっと人がいないところに」

「・・・」

 ●●のこと?どういうことだ。
 何が起きているか量りかねて、それでも大人しくついていくことにした。


 僕の手を引くやつらの背中。

 僕から見えない彼らの表情が悪戯に歪んでいたなんて気づかなかった。



 連れて行かれた場所はまさに人影がなかった。

 僕が何事だと問いただす前に、彼らが抑えたような声を出した。

「いいか、リドル。驚かないで聞いてくれ」

 もったいつけるような口ぶりにイライラする。いいから早く言えよ。


「●●が、いなくなった」

「・・・」

 僕が、こいつ何言ってんだといった表情をしていると、一人がポケットに手を突っ込んで何か紙のようなものを取り出して、その表面のほうを僕に見せた。どうやらそれは写真のようだった。

 その写真を見ては、どうしても目を細めずにはいられないものであった。

 なにせ、その写真。

 ●●が体中に怪我をしていて、写真の枠には入っていない何者かを怯えたように見つめながら後ずさりしているものであった。壁まで追い詰められ、最後に、赤い閃光が●●の胸を貫き、背後の壁伝いに倒れこむ・・・。


「・・・・・なにこれ?」

「今朝、リドルが寮を出てから届いた」

 彼らの顔をじっと見て、またその写真に目を移した。
 今日はじめて見た●●の姿がこんな写真だとは。むかつく。

「リドル・・・どうするんだ?もし襲われてたりでも・・・」


 ボスッという音。


 僕以外の奴らがきょとんとして、音のした写真を同時に見た。写真のど真ん中には大穴。

 杖を乱暴にローブにしまい、呆然としているやつらに背を向けた。

「おい、リド・・・」

「うるさい」

 イライラする。イライラする。

 僕がさっさとその場を離れてしまった後、残された三人は音を立てないようにハイタッチをしたらしい。




 なんなんだ本当に。

 どう見てもあれが偽物なのはわかってる。バカなことをしやがって。

 でも●●の姿がないのは事実で。まさかあの●●が自習なんてしてるはずもない。逆に、先生につかまってるということもないだろう。●●は良くも悪くもない成績が売りだからね。

 ●●は寮にいる。寮にいるんだ。・・・一応訊いてみるか。

 さっきは訊くことは諦めたけど、今回だけ確認までに。談話室に集っていた、●●の友人らに近寄る。


 愛想笑いを貼り付ける。

「ごめん。ちょっといいかな」

 話し掛けると彼女達はお互いに目を見合わせた。何その反応。

「・・・どうしたの?」

 とりあえず聞くことだけ聞こう。

「朝から●●の姿が見えないんだけど、何か知らない?」

「ああ、●●なら私たちが起きたときからもういなかったけど。てっきりトム君といるのかと思ってた」

 うんうんと頷く他の友人ら。

「・・・・そう。ありがとう」

「●●見かけたら知らせておくね」

 微笑んで礼を示し、彼女達に背を向けた。

「・・・」

 まさか、だよな。









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