7歳 / 奈良シカクB
副題:あぁ^〜心がソワソワするんじゃぁ^〜

 奈良シカクに有難いお言葉を頂いたはものの、全く現状の打開策へは繋がっていない今日この頃皆さまいかがお過ごしでしょうか?!あぁん?!
 わたしは、もっと年の近い他の人にちょっとでも教えを乞おうかと思ったが、シカクさんの『焦るな』を信じてよそ見せず毎日アカデミーの授業を真面目に受けている。コゼツと言えば、体術ばかりやたら伸びて7歳クラスだけでなくもうすぐ卒業する11歳の生徒まで軽やかにボコるようになった。

「さて、今日は変わり身の術を教えるぞ!先生が手本を見せるから、一人前に出て相手役をしてくれ!」
「はい!俺がやる!」
「よーし」

 変わり身かー、これは大事だ。
 相手役を買って出た生徒と先生が向かい合って実演開始だ。生徒がクナイを投げ、先生がそれを避けずに食らう。生徒たちがざわめき、相手役の生徒が怯んだ瞬間、先生だったものは木片に変わり、上の木の枝に潜んでいた先生がその子の首にクナイを突き付ける。
 ……なるほどわからん。
 その後先生の説明で、変わり身の術とは、

@まず自分の変わり
身となる物質をあらかじめ登録しておく。
A何らかの方法で相手の視線を逸らし、本体は別の場所に隠れて印を結ぶ。
B自分が今までいた場所に、変わり身が出現する。しかし唯の分身と違い実体があるため、攻撃を加えてから消滅するまでの時間が分身の術よりも僅かに長い。
 
 ……ということらしい。

「………な、なるほどー」

 わからん。忍術アカデミーの絶対ルールその1、真面目に考えちゃだめ!
 そして印を教わり、2人一組になって変わり身の術の練習が始まった。
 変わり身の術に使用されている印は、”登録した物質を具現化する術”と、”登録した物質を分身に変化させる術”が組み合わさっているらしい。
 印はコマンドだ。ナルトという世界では、”文字”が独自の力を持つ。チャクラをどのような形で技として表に出すか、それを決める”命令文”が印である。この身代わりの術の場合、登録した物質を特定の場所に具現化する印+物質を分身に変化させる印、そしてその二つを繋ぐ印で構成されている。
 ということは、術が高度になればなるほど様々な”命令文”、つまり要素を組み合わせなければならないため、印は長く複雑になることになる。ただ一方で、印に使用される文字一つ一つに元々備わっている要素を最大限に引き出すような術――たとえば、木遁は千住柱間しか扱えないとされた強力で貴重な術だが、その印は両手を噛み合わせるだけで良い上に、その印は十二支の中にはない――の場合、その限りではない。
 わたしはコゼツが身代わりかどうか確認せずにバンバン攻撃して、本体だったコゼツが「いたい!」と叫ぶのをよそに、ふむふむと頷いた。コゼツはそもそもどんな雑魚な術さえ使えないので、身代わりな筈がないのだ。でもこいつは回避能力高いのでいいだろう。

「ねぇ先生、もっとスゲー術やりたい」
「俺もー!」
「わたしもー!!」

 授業の鐘が鳴ると、散らばったクナイや手裏剣を皆で回収しながら生徒の何人かが先生に縋った。やっぱそうだよね、わたしもやりたい……でも今は我慢…。

「うーん、例えばどんな?」

 先生は、どうせ実演する気はなさそうな顔で聞き返す。
 
「なんかスッゲーの!!」
「ドォン!みたいなやつ!!!」
「あ、俺口寄せの術ってやつ見たい!」

 あー口寄せの術か。ナルトが自来也先生に最初に教わったヤツ……あれわたしも習得したいなぁ。でも確か難易度そこそこだったような……螺旋丸がAだったからCとかかな?

「ああ、口寄せか……まー、そうだな、それならいいぞ!先生もできるから」
「エッまじで?!」
「見たい!見たい!」

 おっと、いつもなら適当に子どもたちをいなしてさっさと職員室に戻ってしまう先生が、今日は実演してくれるらしい。隣で立っているコゼツもどんなもんかと注目している。

「ジジイだったとはいえ、マダラと一緒にいたから大抵の術じゃ驚かないな」
「そりゃマダぽよと比べられたらどんな忍も霞むよ……」

 オビトがマダラのフリをしてたのだって、尾獣を引っ張り出すために忍界大戦を起こす必要があって、忍五大国を動かすには”うちはマダラ”ってネームバリューが欲しかったからだ。
 先生は、散らばりかけていた生徒が再び円になって集まるのを苦笑して眺めながら、印の説明をする。印は、亥→戌→酉→申→未。確かにナルトでも覚えられそうだ。

「口寄せの術とは時空間忍術の一種だ。血で契約した動物を、掌の下に呼び出すことができる。呼び出す際にはその通行料とでもいうのかな、引き換えに自分の血を必要とする」

 ほー、あの血って通行料の役割だったんだ。
 先生の説明に、生徒たちは各々自分の親指を見つめたり舐めたり、ちょっと噛んでみたりしてざわざわしている。結構カプッといくからね、カプッと。

「忍法・口寄せの術!」

 ボフン!と煙をあげて現れたのは――大きなイノシシだ。
 生徒たちからおお〜!と歓声が上がって、先生もちょっと嬉しそう。その後、そのイノシシは自分で自己紹介をし始めて、更に特定の生徒に向けて猪突猛進し始めたので、先生が慌てて抑えた。契約する動物を上手く制御するためにも、良好な関係を築く必要があるようだ。

「アレ良かったね、口寄せの術」

 夕方、アカデミーが終わった後いつものように演習場に向かいながらコゼツが言った。

「マダラも九尾と契約したってことかな?でも九尾って血の契約ごときじゃ主人に従ったりしない気がするんだけど……」
「あーそれね、謎だよねー」
「サエも知らないことあるんだ」

 にやり、と笑われたので、ははは、と肩を落とす。

「そりゃあるよ…」
「ボク、サエの正体に一つ仮説を立てたよ。仮説というか、これ以外思いつかないんだけどー」
「へえ、何?」

 純粋に興味があったので聞いてみると、コゼツは薄黄色の目を細めた。

「サエは、記憶だけそのままに時間を巻き戻った。だからサエは未来のことを知ってて、しかもその未来ではボクらやマダラとも関わってるし、黒ゼツが何者かも知ってる」
「ああ……」

 まあそんなところかなと思った。
 わたしは少し頭を捻り頷く。

「うん、そんな感じ。ちょっと違うけど……それで?どうする?」
「ボクの本体とか黒ゼツってどうなるの?」
「うう――ん、教えてもいいけどそれでお姉ちゃんに支障があったら嫌だしなー」

 コゼツにはとても助けて貰っているし、前言ってたことが本当だといいなと思っているが、その一方で一生本気で信じることもないと思っている。

「失敗するよ。ん、失敗?かな……微妙だけど、目的は叶わない」
「そうなんだ。どうして?」
「そこは教えられないかなぁ」

 ふふん、と笑うとコゼツはあまり興味のなさそうな顔で「残念」と言った。

「それじゃあ全部終わったら教えてよ」
「全部?全部って作戦の話?」
「サエが全部って思うとこまで行ったら」

 それじゃあ意味ないだろうと思ったが、まあコゼツがそれでいいと思っているならいいやってことで、了承した。
 さて、薄暗い演習場についてそれぞれ傷つかない程度の間合いを開ける。秋になって急に日が沈むのが早くなったので、うかうかしているとすぐ真っ暗になってしまう。明かりのついていない場所で練習するのもそれでまた別の器官が鍛えられそうで良いが、今はそういうの求めてない。需要が違うのだ需要が。



 そして、約2時間、暗闇に目が慣れて夜になったことすら気づかないまま、自主練に打ち込んだ。コゼツとの忍組み手を20本、それが終わったら各々手裏剣術や忍術など。わたしはチャクラを練ることや、分身の術、変化のの術などの基礎忍術は完璧にできるし、身代わりの術もかなりの速さでできる。
 だが、まだ印を結ぶのが遅い。アニメナルトのような、シュシュシュシュシュシュシュ!ってな感じとは遠い。つーか指をね、指と指の間でへし折りそうになるんだよね。医療忍術に期待して多少折れてでも速さを追及すべきか……。

「サエ、そろそろ八時だよ。帰ろう」
「ハーッ、ハーッ、……はっ………そだね…」

 下着までぐっしょり濡れて、それでも滴る汗を袖口でぬぐう。今日も一日頑張ったからとても疲れた。あーここにサラサラパウダーシートがあったらなぁ……今からこの温い空気の中を家まで帰るのやだなあ。ギャツビー!ギャツビーをもてー!
 帰り際にちょっといいことを思いついて立ち止まった。ニヤつくわたしを見てコゼツが”こいつまた何かどうでもいいことやる気だ”と言いたげな神妙な顔をするがそんなの気にならない。

 亥・戌・酉・申・未!

「口寄せ!ビル・ゲイツ!!!」

 シーン……。
 
「口寄せ!わたしのiPhone5!!!」

 シーン……。

「…………」

 コゼツが真顔で見ている前で地面にがっくりと手をついて項垂れる。
 畜生!畜生!!畜生があああああ!

「auと契約してるじゃん!!!!!!料金払ってるじゃぁん!!!」

 もうなんなんだよ!一体どうなってんだよ泣くぞ!血より金だろ!!金の契約してんだから来いよ!!!!!
 わたしは思うようにいかない苛立ちを携帯のせいだと思い込むことで発散し、その後も地道にルーティーンワークを続けた。シカクさんの教えはきっと正しいはずだし、自分のその言葉に納得していたので、なるべく冷静になって静かに毎日を過ごすよう意識した。
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