「そうですね…あとは中佐にヘンな対抗心を持った人とか、中佐を恨んでる人とか、そんな男ばっかりでした。ただでさえ中佐が投獄された後、変な噂が流れて大変だったのに……」

「変な噂とは?」

なまえは口ごもったが、猛禽類のそれを思わせるキンブリーの双眸に注視され、仕方なく口を開いた。

「…中佐に調教されたとか、遠隔操作出来る爆弾付きの貞操帯を着けられてるとか、そういう類いの噂です」

「それはそれは」

そっぽを向いて答えれば、低く笑う声が聞こえてくる。

「笑いごとじゃないですよ!誰のせいだと思ってるんですか!ニヤニヤしながら『本当かどうか見せてくれ』って言ってくる男とかいて、本っっ当に大変だったんですからねっ!」

なまえは赤い顔でキンブリーを睨みつけた。

「悪いとは思っていますよ」

そう言いながら、ちっとも悪いと思っている様子のない口調でキンブリーが告げる。

「何しろ私は牢獄の中に囚われの身で、可愛い部下を擁護しようにも自由に動けませんでしたからね。せいぜい噂を流して情報操作するぐらいしか──」

「ちょっと待って下さい」

なまえは怖い顔で遮った。

「じゃあ、もしかしてあの噂を流したのは……」

「私です」

「なっ、なんてことしてくれるんですかーーーー!!」

この人変態だ!
わかってたけど!!

「まあまあ、落ち着いて」

キンブリーが両手をあげて宥めてくる。
右の手の平には、円の中に下向きの三角が描かれ、その中央には太陽のマーク。
左の手の平には、円の中に上向きの三角が描かれ、その中央に月のマーク。
世の中には、彼のこの両手が合わせられる瞬間を恐れている人間が山のようにいる。
次に襲ってくるものが爆発による自身の死だと知っているからだ。

「調教したのは事実ですし、まったくの事実無根というわけではないでしょう」

なまえは深々とため息をついた。

「これで婚期が遠のいたら中佐のせいですからね…」

「おや、私以外の男と結婚するつもりだったと?」

声のトーンはそのままに、キンブリーの声の温度が明らかに下がる。
ぞくりとしたなまえは慌てて付け加えた。

「だ、だって、所帯を持つ中佐とか家庭を築く中佐とか全然まったく想像出来ないんですけど」

「まあ、それもそうですね」

顎に手をあてたキンブリーが、ふむと頷く。

「ですが──貴女とならば悪くはないと思っていますよ。私の子を孕んだ貴女は是非とも見てみたい」

「中佐…その言い方、凄くいやらしいです…」

しなやかな指で自分の唇をなぞりながら妖しい微笑を浮かべてみせた殺人鬼から、なまえは目を逸らした。
目を合わせたら負けな気がして。
けれども実際にはとっくの昔に手遅れなのだった。


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