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サンタクロースはいるのです。


裏新宿にある喫茶店、HonkyTonk。
ドアベルを鳴らして店内に入った赤屍は、カウンター席に座る二人組を見て薄く笑んだ。

「こんにちは、美堂君、銀次君」

「あっ、赤屍さん…ここここんにちは」

早くもビビりモード全開で挨拶を返す銀次とは違い、蛮は赤屍を一瞥したきり、黙って煙草をふかし続けている。
いつものように食ってかかって来ないのを不思議に思っていると、カウンターの中にいる波児が笑った。

「そいつ、競馬で全財産スッちまったんだよ。それで朝からずっとそうやって不貞腐れてるわけだ」

「おやおや」

「うるせーな! 絶対上手くいくはずだったんだよ! 警備員に止められなけりゃ、今頃は大金持ちだったんだからなっ!」

「でも蛮ちゃん、馬に邪眼かけるなんて絶対無理だよ…」

「そりゃあそうだ。レース直前、それもゲートに入った馬に近づけるわけきゃないだろう」

「戦闘に関しては驚異的な才能を見せるのに、それ以外の時にはさっぱり頭が働かないのですねぇ…」

「またロフト暮らしが遠のいた」とぼやく銀次に八つ当たりしている蛮を、波児と赤屍はダメな子供を見る大人の目で眺めた。
頭は決して悪くないはずなのに、金が絡むとどうしていつもこうなのだろう。
欲に目が眩むせいなのかもしれないが、ダメ人間まっしぐらである。

「ああ、悪い。注文はどうする?」

「では、紅茶を。ストレートでお願いします」

気を取り直した波児に尋ねられた赤屍が、そう答えた時、再び喫茶店の入口のドアが開いた。


不幸は重なるというが、あんまりだ。
聖羅は絶望的な気持ちのまま、馴染みの喫茶店へ入っていった。

「マスター…!」

「おお、聖羅ちゃん。どうした? なんかあったのか?」

サイフォンを手にした波児の前には、黒衣の運び屋が座っている。
その向こうには、いつもの二人の姿も見えた。

「こんにちは。何かお困りですか?私でよければ話してみて下さい。相談に乗りますよ」

「赤屍さん…」

じわっと滲んだ涙を、白い手袋に包まれた指先が優しく拭う。
もともと愚痴る為に来たので、ある意味願ったりな展開だったが、やはり温かさが胸に染み渡る。

「実は…」

聖羅は自分の身に降りかかった不幸を彼らに話して聞かせた。
この不況で会社の業績が倒産寸前にまで落ち込み、社員は年内に自主退職することを余儀なくされた状況となった。事実上のリストラだ。
急いで転職しようにも、この年末にそう簡単に次の職が見つかるはずもない。
しかも、明日の生活さえどうなるかという暗い気持ちで会社を出た聖羅は、その帰り道に引ったくりに遭い、財布と携帯の入った鞄を奪われてしまったのだった。

「それはまた……」

波児が言葉に詰まり、ううんと唸る。

「一応、警察に行ったんですけど、諦めたほうがいいって言われて…」

「まあ、八割方戻って来ないだろうなぁ」

「そうですね。財布以外のものは見つかる可能性はないでもないですが、まず見込みはないでしょう」

赤屍が頷く。
分かっていたこととはいえ、やはり冷静な第三者に肯定されると、よりいっそう重い事実としてのしかかってくるものだ。
聖羅は涙ぐんで項垂れた。



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