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ああ…頭痛が痛い。
日本語としては少々破綻した表現だが、単純に『頭が痛い』と言い表すよりも、今の状態に合っている気がする。
痛みのせいか思考は混乱しているし、大分壊れかけているのかもしれない、と聖羅は思った。

パソコンの画面を眺めながら、少しでも痛みがましにならないかと目頭を指で揉みほぐす。
完全に目の疲れからくる頭痛だ。
職業病。
そう言ってしまって良いほど頻繁に悩まされている、この頭痛。
長時間パソコンに向かう仕事をしているのだから仕方がないのだが、やはり辛い。

「う〜…ダメ、もう辞めたい…」

「だから、私のところに永久就職してしまいなさいと言っているでしょう」

トン、とキーボードの脇にグラスを置いて、赤屍が笑う。
不意打ちと呼ぶに相応しい唐突さで、耳に直接吹き込むようにして艶めいた美声で囁かれた聖羅は、「ひゃっ」と悲鳴を上げて椅子の上で数ミリ飛び上がった。

「おやおや。まだ慣れませんか」

クスクス笑う声さえもが腰に響く。
甘やかなテノールは、それだけで腰砕けになる威力を持っていた。
きっと一生かかっても慣れることなんて出来ないと思う。
絶対無理だ。

「もう…分かってて苛めるんですから…」

「すみません。貴女の反応があまりに可愛らしいので、つい」

ついで苛めるのか!
このドS!
赤くなった頬をさすって熱を冷ましながら見上げる先で、悔しいほどに余裕に満ちた笑みを浮かべている美貌の恋人。
その涼しげな眼差しが、つ、と逸れてパソコンへと注がれる。

「イタリア語ですね」

「そうなんです。赤屍さん、イタリア語分かります?」

「日常会話くらいでしたら」

控えめな返答だが、恐らく完璧に使えるのだろうと聖羅は思った。
聖羅が知っているだけでも、この男は英語・ドイツ語に堪能で、その上、どうも他にも数ヶ国の言語を話せるらしいという事が判明している。
本当に底の知れない男だ。



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