「お仕事ですか?」 「はい。夏休みの宿題、かな」 残業分を自宅に持ち帰る事をそう呼べるのなら。 ビジネス文書の作成に使う資料のファイルをポンと叩いて苦笑する。 今は便利な変換ソフトがあるので、日本語で打ったものをそのままぶちこむだけでいい。 が、しかし、その文章そのものに間違いがある場合もあるので、やはりチェックは必要だった。 「おかしなところがないか見てもらってもいいですか?」 「ええ、構いませんよ」 長身を僅かに屈めて画面を覗き込む赤屍の横顔を、聖羅はそっと見つめる。 綺麗な──本当に綺麗な顔。 美人とか美貌とかの表現が大袈裟にならない、美しい顔だ。 彼と出逢って、結ばれて、何度目かの夏が巡ってきた今も、変わらず恋をしている。 いまだに胸が高鳴る。 怖い人だということも嫌と言うほど知っているのに、どうしても惹かれてやまない。 そういえば、妹のように可愛がっている遠縁の親戚にあたる少女も、今まさに恋をしている真っ最中のようだった。 ディスプレイの横に置かれた写真立ての中から微笑みかける、蜂蜜色の髪と瞳を持つ可愛らしい少女の隣には、陽に透けた部分が藍色に見える艶やかな黒髪と左右色違いの切れ長の瞳が印象的な、怜悧で端整な顔立ちの少年が写っている。 黒髪といい、切れ長の瞳といい、一見冷たそうに見える綺麗な顔といい、胡散臭い感じのする笑顔といい、何だか赤屍に通じるものを感じてしまう。 面食いなのは血筋なのだろうか、と聖羅はちょっと考えた。 もしかすると中身も似ているのかもしれない。 「特に問題はないと思いますよ」 「そ、そうですか!良かった!」 急にこちらを向いた赤屍に、聖羅はパッと視線を逸らし、不自然にファイルを捲りながら動揺を隠そうとした。 直ぐ横で、くすりと笑う気配。 「では、手伝ったご褒美を下さい」 長く白い指で顎を掬われて、美しい弧を描く唇が近づいてくる。 「キス、しましょう。──ね?」 同じ頃、ここではない何処かで、少年が少女にそうしているように。 世界は繋がっていて、そこでは誰もが恋をしている。 |