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正義の味方なんて柄じゃない。
むしろ、裏稼業を営んでいる以上、善人と呼べる人種からは程遠いのではないだろうか。

「あ───」

タクシーに乗り込んできた若い女は、運転席に座る馬車の顔を見るなり、小さく声を上げた。

「あの、先日は有難うございました」

ぺこりと頭を下げられるが、馬車は何のことかわからず首を傾げた。

「おや、顔見知りでしたか」

続いて乗り込んできた赤屍が女に声をかける。
客が二人とも乗車したのを確認して、馬車はタクシーのドアをしめた。
告げられた行き先は恐らくは女の自宅のある場所なのだろう。
その事に一先ず安堵しつつ、車を発進させる。
この時間だ。もしも目的地が赤屍のアジトだったとしたら、嫌でもその先を想像してしまう。
プライベートな事に口を出すつもりはないが、巻き込まれるのも勘弁願いたい。

「この前、怖い人に絡まれていたところを助けて頂いたんです」

「…絡まれた?」

赤屍の声音が低くなる。
同時に、女が「しまった」と言わんばかりの顔になったのを見ると、どうやら赤屍には秘密にしておくつもりだったようだ。

「そんな事があったとは初耳ですが」

「ごめんなさい…でも、言ったら心配させちゃうと思って」

「当たり前です」

咎める口調でぴしゃりと言って、赤屍は僅かに眇た瞳をミラー越しに馬車へと向けた。
裏の世界には、その眼差しを目にしただけで震え上がる人間が掃いて捨てるほどいるだろう。
場数を踏んでそれなりに胆も座っているはずの馬車でさえ、一瞬寒気を感じたくらいだ。

「気が変わりました。私のマンションに向かって下さい」

「赤屍さん!?」

「どうやら聖羅さんにはお仕置きが必要なようですから、ね」

「な……こ、困ります! 明日も仕事なのにっ」

「諦めなさい。大体、いつも言っているでしょう。貴女一人くらい私が養って差し上げると」

馬車は申し訳ない気持ちになりながらも、方向転換してタクシーの行き先を変えた。



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