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「ただのゲームだよ」

顔の上半分が隠れるくらい大きなゴーグルを着けたMAKUBEXは、キーボードを叩きながら言った。
目の前のディスプレイには見覚えのある部屋が映っている。
見覚えのある間取り、見覚えのある家具、見覚えのある……というか、どう見ても聖羅の部屋だ。

「脱出ゲームって知ってる?」

「あー、確か携帯アプリのゲームでそんなのがあったような…」

「そうそう、それ。それを僕なりにアレンジしてみたんだ。クリア条件は部屋から脱出すること」

脱出ゲームというくらいなのだから、目的が「脱出」であることは当然といえば当然か。
しかし、何だか嫌な予感がしてならない。

「ただ、この部屋はストーカーによって監視されている」

「ええええ…」

案の定いきなり犯罪くさくなってきた。

「気になる場所や物をクリックすることでゲームは進行するんだけど、場合によってはストーカーに脱出を気どられて捕獲されてしまうから気をつけて。それから、制限時間を過ぎてたら自動的に捕まるようになってる。いわゆるバッドエンドだね。だから、なるべく短時間で上手く逃げなければならない──どう? 面白そうだろう?」

ゴーグルのせいでこの少年の表情はよくわからないが、口許は楽しげに笑んでいる。
…こういう笑い方をする男を聖羅は他にも知っていた。
その常人には到底理解出来ないぶっ飛んだ方向への飽くなき探究心といい、恐ろしく頭が良いところといい、彼らは案外似た者同士なのではないかと時々思うことがある。

「じゃあ、早速だけど、そこのポッドに入ってくれるかな」

細い指先が示した先に視線を向けると、卵を半分に割ったような形をした白い塊があった。
人が一人座れるくらいのスペースがあり、実際、中には可変式の椅子が設置されていた。

「新しいバーチャルシステムだよ。電波信号に変えたプログラムを直接脳に送って、実際にゲームの中で動いているように体感出来るんだ。視覚だけでなく触覚にも作用するから、かなりリアルなバーチャルが楽しめるはずだよ。勿論、追いかけられる恐怖もね」

「…凄くやりたくなくなってきたんだけど」

「どうして? ただのゲームだよ」

「その部屋を監視してて逃げ出そうとすると捕まえにくるストーカーって、黒い帽子を被ってて黒いコートを着てたりしないよね」

「私服のほうが良ければ、衣装チェンジも出来るけど。ちなみに白衣は一度クリアした後のオマケで選択出来るよ」

「いやいやいやいやいやいや。そういう問題じゃないから。むしろクリア出来る気がしないよ!」

「大丈夫だよ、ちゃんと難易度を選べるようにしてあるし。不安なら最初はEASYモードで遊べばいい」

どうしてこんな時に限って朔羅がいないのか。
いや、朔羅がいないからこその暴走なのか。



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