「ねえ、MAKUBEX、どうしてもやらなきゃダメ?」 そう言うと、MAKUBEXはゴーグルを持ち上げて聖羅の顔を見た。 少女めいた感じのする可愛い彼の顔には、叱られた子犬のような表情が浮かんでいる。 「ごめん…君の為に造ったゲームなんだけど、あまり喜んで貰えなかったみたいだね…」 瞳を伏せて弱々しい声で言う彼に、聖羅はまるで小さな子供を苛めている気分になった。 実際に苛められているのは聖羅のほうであるにも関わらず。 「い……一度だけなら……」 「そう? 良かった。じゃあ、ポッドに入って」 上手く丸めこまれた気がしないでもないが、仕方なく言われるままに機械の中に腰掛ける。 透明なカバーが上から降りてきた途端、眠気に似た感覚が頭を襲った。 「それじゃあ始めるよ」 MAKUBEXの声が急激に遠ざかる。 気が付くと、さっきまでとは違う場所に立っていた。 「これがゲームの中?」 部屋の中だ。 何処からどう見ても、そこは自分の部屋の中だった。 造られた映像に囲まれているという違和感もない。 とてもバーチャルとは思えないリアルさである。 流石はMAKUBEX。 情熱が向かう方向はともかくとして、彼が天才なのは間違いない。 それほど広くはない部屋の中心に佇み、聖羅は頭を悩ませた。 脱出ゲームのセオリーからして、ただ闇雲にあれこれ調べるだけではクリア出来ないはずだ。 特定の順番で特定の場所を調べることで、フラグを立てる必要があるに違いない。 ただ問題なのは、ホラー系脱出ゲームによくある、BADENDフラグに注意しなければならないという事だった。 おかしな真似をすればたちまち赤ば…ストーカーに気付かれてしまう。 窓を見る。 カーテンがひかれたそこを開ければ── いやいや。窓の向こうから「こんにちは」な事態が待っていそうで、とても怖くて近付けない。 しかも、それが逆さまにぶら下がっている姿だったとしたら、もうショック死ものである。 玄関も同様だ。 開けた途端、ドアの向こうに……という光景が容易に想像出来た。 そもそも、そんな簡単に脱出出来るはずがない。 「ど、どうしよう…」 |