花火が上がるまでの間、聖羅は赤屍との会話を楽しみながら食事に集中した。 花火の代わりにレーザーがショーのメインになっていると言った赤屍の言葉は正しかったようで、会場周辺からは、何本もの光の柱が立ちのぼったり、天に向けて様々な色の光が放たれたりと、この場所からでもその様子が見てとれた。 「また上がり始めましたね」 再び打ち上がった花火を見て赤屍が言った。 始めの時とはまた違った上がり方だ。 気のせいか、さっきよりも豪華に見える花火からは、このショーも後半にさしかかったのだということが伺える。 「ゆっくり見て良いのですよ。貴女に楽しんで貰う為に誘ったのですからね」 「赤屍さん…」 優しい微笑を目にして、思わずうるっときてしまった。 ようやく興奮はおさまってきたものの、気持ちは盛り上がったままだったからだ。 「私は、楽しそうに花火を眺めている貴女を見ているだけで満足です」 場所が場所でなければ、きっとキスへと繋がっていただろうと思わせる、甘い甘い声音での囁き。 そして、場所が場所なら、聖羅もそれを拒まなかったはずである。 それから暫くして。 どぱぱぱぱぱぱんっ。 一際大量の花火がほぼ同時に打ち上げられ、開港記念のショーはついにフィナーレを迎えた。 「有難うございました。凄く楽しかったです」 「いいえ、どういたしまして。私も楽しませて頂きましたよ」 会計をして店を出て、化粧室で軽くメイクを直した聖羅は、赤屍の腕に甘えながら海沿いの道を歩いていた。 アルコールが入っているせいか、この時期にしては少し冷たい潮風が気持ちがいい。 今夜はこんなにはしゃいで良いのかと思うぐらいはしゃいでしまった。 普通なら自重すべきところだが、でも、明日は──。 「あの──赤屍さん…」 「何ですか?」 穏やかな声で聞き返してくる恋人に、聖羅は一瞬だけ躊躇ってから、意を決してその言葉を紡いだ。 「私、明日は、仕事お休みなんです……だから、」 酒の酔いのせいではなく頬が火照る。 「だから…今日は、ずっと赤屍さんと一緒にいたい、です…」 くす、と笑みを漏らした唇が、聖羅の唇をそっと掠めた。 大きな手に頬を包み込まれる。 夜の闇と同じ色をした艶やかな長い黒髪が風になびいて揺れている。 「それを聞いて安心しました。──私も、貴女を帰したくないと思っていましたから」 これも花火の魔力だろうか。 ふわふわとして現実感があまりないまま柔かく抱きしめられ、聖羅は陶然とした面持ちで目を閉じた。 |