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赤屍が聖羅を連れて行ったのは、柔かいシルバーの光でライトアップされたマリンタワーだった。
先日リニューアルオープンしたばかりとあって、外観から内装まで以前のものとは一新されている。

「あ、ここ知ってます。前、鳥がいた所ですよね」

「ええ。バードピアがあった場所ですよ」

勿論、鳥の影や形も匂いも残っていない。
そこはモダンジャズが流れるシックな内装のレストランへと変わっていた。
赤屍が名前を言って予約を入れていた旨を告げる。
黒とブラウンを基調とした見るからに高級そうなインテリアの数々が並ぶ店内を抜け、テラス席へと案内された。

「晴れていて良かった。ほら、花火はあちらの方角から上がりますよ」

赤屍が会場の方角を指差して教えてくれる。
遮るものは何もない。
夜空の下には美しい夜景と夜の海が広がるばかり。
絶好の花火日和、絶好のスポットだ。
聖羅はワクワクしすぎて、殆ど上の空でオーダーを済ませた。

会場のある辺りが恐らくレーザーと思われる光によって青く染まった。
いよいよだ。
やがて、パパン、という打ち上げ音とともに最初の花火が夜空に打ち上げられた。
一見地味かな、と感じられるものだが、初めだから大体こんなものかもしれない。
レストランの客の間からも、「わあっ」と歓声が上がった。
無論聖羅も大喜びだ。

「赤屍さん赤屍さん!花火始まりましたよ!」

「そうですね」

赤屍の声が笑み混じりであることにも気付かず、聖羅は夜空に上がる花火に見入った。
やはり先ほどのものは最初だから地味だったらしい。
次々に鮮やかな大輪の花が咲いていくのを見て、聖羅は感嘆の声を漏らした。
漆黒の夜空にキラキラと色とりどりの光が散っている。

「綺麗……」

「…可愛いですね」

「え?」

「そうして夢中になっている姿が、ですよ。食べてしまいたくなるほど可愛らしい」

聖羅は、たった今打ち上げられた赤い花火さながらに赤くなった。


時間にして十分程だろうか。
暫くすると、花火の音が止んだ。

「あれ?もう終わり…?」

「いえ、演出上の中休みでしょう。今はレーザーによるショーがメインで行われているのだと思いますよ」

赤屍が冷静に言った。
そこへちょうど良いタイミングで料理が運ばれてくる。

「今の内に食べてしまいなさい。また花火が上がり始めたら夢中になってしまうでしょう?」

「う…はい」

優しく微笑みかけられ、聖羅はナイフとフォークを握った。
目の前の皿には、美味しそうなローストビーフが盛り付けられている。

「わぁ、美味しそう!」

「この店のお勧めメニューだそうです」

「そうなんですか?」

「ええ」

赤屍はくすくすと機嫌良さそうに笑っている。
恐らく、オーダーの時に店員から説明があったのだろう。
花火を楽しみにするあまりそれを聞き逃してしまっていたのだ。
今更だが恥ずかしくなってきた。



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