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今夜は、待ちに待ったお花見。

早くから場所取りをしていた甲斐があり、良い場所を確保出来た。
後は、思い思いに桜を愛でるだけだ。

「あまり騒々しいのは好きではないのですが、ね」

宣言通り、赤屍もちゃんと来ていた。
酒盛りを始めた面々をやや冷めた目で眺めつつ、自らは一歩離れた場所で静かに杯を傾けている。
闇夜ならば溶け込んでしまいそうな黒衣も、提灯の灯りのもとでは、不吉さも薄れるというものだ。
お陰で聖羅も赤屍に対する恐怖を忘れ、機嫌良くお酌をしてやっていた。

「まあまあ。ほら、夜桜がすごく綺麗ですよ」

真上に、横に、正面に。見渡す限り辺り一面に枝垂れ桜が咲き誇っている。
やはり、桜はイイ。
念願の花見が出来て、聖羅はすこぶるご機嫌だった。

「そうですね。確かに、美しい──せっかく花見に来たのですから、酔客ではなく桜に意識を向けるべきですね」

赤屍が薄く笑んで、杯に唇をつける。
花霞に浮き上がるようなその美貌は、聖羅をドキドキさせた。
赤屍の周囲だけ空気が違って見えるのは、夜桜のもたらす高揚のせいだろうか?

「そうですよ! 楽しまないと!」

ときめきを感じてしまった自分を誤魔化すように、赤屍が干した杯に酒を注ぎ足す。

「では、楽しませて頂けますか?」

「──えっ?」

「約束したでしょう。私を退屈させないと。私なりのやり方で楽しませて頂くとも言ったはずですよ」

「そう言われても…」

はっきり言って、何も思いつかない。
何か芸を見せろという訳でもなさそうだし、どうしろと言うのだろうか……

「そうですねぇ…まずは、酒の肴に、聖羅さんの恥ずかしい告白でも聞かせて頂きましょうか」

「は、恥ずかしい告白うぅ?」

「ええ」

こちらを見つめている赤屍の瞳が笑っている。

「今までで、一番恥ずかしかった体験は何です? 聞かせて下さい」

羞恥プレイ?
夜桜を眺めながら、酒を飲む男を前に、羞恥プレイ?
聖羅はおめめが遠くなった。



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