「えーと……」 ごねてキレられても困るので、仕方なく話し始める。 すると、赤屍は本当に酒肴にするつもりらしく、微笑を浮かべたまま聖羅の話に耳を傾け、時折容赦のない追求をしては、好き放題に聖羅を弄んだ。 「そんな恥ずかしい真似をするなんて、貴女という人は…」 「な…何ですか?」 「……クスv」 「…………」 もうやめてー、である。 「あの、赤屍さん、私そろそろ向こうに…」 「おやおや。貴女はそんなに無責任な方だったのですか? いけませんねぇ、最後まで責任を取って頂かなくては」 「……うう…」 しかも、蛮達のほうに混ざりたくても、そう簡単には離してくれそうにない。 どうしてこんな人を誘ってしまったのだろう…、と後悔していた時、赤屍がついと身を乗り出した。 「えっ、何ですかっ?」 「動かないで下さい」 赤屍の手がそっと髪に添えられた。 わけがわからず、赤くなったまま固まっている聖羅に、至近距離で美しい顔が微笑む。 「赤屍さん…?」 顔が熱い。 胸がドキドキと苦しいくらい高鳴っている。 赤屍がクスッと笑って、髪に触れた手を聖羅の前で開いて見せた。 その中にいたのは、瑠璃色の二枚の羽を持った── 「あっ……蝶々?」 「この蝶も桜に誘われてやって来たのでしょう」 ひらりと羽を閃かせると、蝶は夜空に舞い上がっていった。 「桜と貴女という、魅力的なものが二つもあるのですから、その気持ちは良くわかりますよ」 「ですが」と、赤屍は再度聖羅の髪に手を滑らせながら艶やかに笑んだ。 「貴女に触れるのは、私だけでいい」 急激に花見の喧騒が耳から遠ざかっていく。 重なった二つの影の頭上で、蝶の羽ように夜桜が風に揺れていた。 |