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大学の定期試験が終わり、やっと夏休みに入った。

試験の出来は──
…まあ、済んだ事を今更悔いても仕方がない。
聖羅は前向きに考える事にした。
試験期間中休ませて貰っていた喫茶店HonkyTonkのウェイトレスのアルバイトも今日から再開だ。

HonkyTonkといえば、常連客の蛮は、学校に通っていなかったはずなのに妙に博識で、たまに会った時など「お前本当に現役の大学生かよ」と馬鹿にされてしまったりもする。
たぶん彼は素で天才なのだ。
調子に乗るから絶対に本人にそんな事は言わないけれど。

「すっかり遅くなっちゃったなあ」

テーブルを拭きながら、窓の外を見て呟く。
今日は今までの分を取り戻そうと張り切った結果、閉店まで通しで働いたのである。

「悪いな、聖羅ちゃん。こんな遅くまで残って貰って」

皿を拭き終わった波児がすまなそうに言った。

「いいえ、自分から言い出したことですから。それに、迎えに来て貰う約束になってるから大丈夫ですよ」

「ああ、旦那か」

「だ、旦那って言わないで下さいっ」

「はいはい、ごちそーさん」

波児はニヤニヤしている。

「ほら、もうこっちはいいから電話して旦那に来て貰いな」

「マスター!」

聖羅は赤い顔で波児を睨み、 鞄のあるバックヤードに向かった。
波児の笑い声が背中を追いかけてくる。


電話して数分もしない内に迎えはやってきた。
カウンター側のライトだけを残して店内の照明を落とした喫茶店から外に出た聖羅を、黒衣の男が出迎える。

「今晩は。お迎えにあがりましたよ、聖羅さん」

「すみません、有難うございます、赤屍さん」

聖羅はぺこりと頭を下げた。
そうして並んで歩き始める。
自宅であるアパートは、ほんの数ブロック先だ。
裏新宿の中にぽかりと空いた、森に囲まれた住宅地である。
何でも昔、小さな神社があり、その鎮守の森の名残なのだとか。
車で送り迎えをして貰う距離ではないのだが、途中、人通りの少ない暗い場所があるので、暗くなってからは一人で行動せずに連絡するよう赤屍に言われていたのだった。
一度、申し訳ないという気持ちから一人で夜道を帰った事が赤屍にバレてしまい、それはもう甘くて辛いお仕置きをされてからは、素直に従うことにしていた。



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