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眠らない街 裏新宿。
この国でもっとも危険な不夜城と悪名高いこの都市の一角に、激しく火花を散らして戦う男達の姿があった。

「そっちは任せたぞ、銀次!!」

「うん!任せて蛮ちゃん!」

まだ少年の域を脱しきれない、あどけなさを残した顔を引き締めて、銀次が走り出す。
相棒の蛮は卑弥呼を追って行った。
ならば、自分の相手は──

「なるほど。私のお相手は貴方ですか、銀次君」

巨大な満月をバックに佇む男。
高層ビルの屋上だというのに、幅が30pも無いコンクリートの縁の上に悠然と立つその姿は、Dr.ジャッカルこと、運び屋の赤屍蔵人だった。
夜目にも切れ長の瞳が楽しげに細められているのがわかる。
銀次はゴクリと喉を鳴らして構えた。

「依頼品を取り返しに来たのですね。どうぞ。出来るものなら…ね」

「ッ!!」

赤屍が天に向かって左手を差し伸べる。

「──赤い雨(ブラッディ・レイン)」

次の瞬間、銀次の頭上から無数の刃の雨が降り注いだ。

楽しい夜だ。
実に楽しい。
赤屍は楽しんでいた。

銀次の放った雷撃を難なくかわし、赤屍は隣りのビルへと飛び移った。
ビルとビルの谷間から吹き上げる強風に煽られて黒いコートの裾がはためく。
片手で押さえた帽子の下からチラリと背後に視線を流す。
途端に、直ぐ横を電撃が掠めていった。

「待て!赤屍ッッ!!」

金髪の青年が必死に追って来るのを見て、赤屍の唇に浮かんだ微笑が更に深まっていく。
さん付けが呼び捨てになっているのは、銀次が明らかに『戦闘モード』になっている証拠だ。
赤屍にとっては喜ばしい事だった。
そうこなくては。
そうしてビルからビルへと飛び移る間、摩天楼に幾度も鮮やかな稲妻が瞬いた。
直情な銀次の性格は攻撃にも表れている。
剣に例えるならば、その太刀筋は曇りが無く、何処までも真っ直ぐだ。
しかし、それがただの単調な攻撃にとどまらないのは、奪還屋としてのこれまでの戦闘経験で磨かれてきたからなのだろう。
相棒の蛮といい、未知数の成長性を秘めた彼らは、実に興味深い。



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