50.5

「ぶっちゃけ縁下は紬のこと好きなのかと思ってたんだけど」
「は?」

本人不在をいいことにぶっ込んできたクラスメイトに対して、縁下は珍しく間抜けな声を上げた。別にそう思われていることが全くの想定外だった訳ではないけれど、直接言われるとも思っていなかった。言われるとしてもこのタイミングでは絶対にないと思っていたから。

「やっぱりただの部活仲間に対してそこまで優しくしたりしないだろうし、気にしてるし」
「そりゃ気にはするでしょ。相手が相手だし」
「ふーん…?」
「仲間だから、それだけ。」
「そうなんだ」
「そうです」

目の前の飯田は煮え切らないような視線で俺を見やる。やっぱり簡単に納得できるわけがないか。飯田から見た縁下は、叶わないとわかりながら部活の仲間たちの背中を押しているように見える。それでいいならそれまでだけど、ちょっとは報われてほしいなんて思ったり。

なんてったって飯田にとってはどちらも幸せになってもらいたい対象なのだ。正直なところ紬に関しては可愛くて物言いははっきりしているくせになぜか全く自分に自信がない。そんでネガティブ思考。話を聞く限り先輩は紬のことを気にしているはずだし、例の幼馴染に至っては絶対に彼女のことが好き。確実にラブの方で。側で聞いていれば絶対にモテる女の子なのに、なぜあんなにも消極的になってしまう瞬間があるのか。ちょっとした危うさがあるのだ、彼女には。

それをサポートしているのが同じく部員であり同じクラス、目の前にいる縁下力という男だ。見守りつつ良いところで支えたりするから、飯田から見れば彼も報われてほしい対象ではある。

「縁下のことも応援してるからね、私」
「だからそんなんじゃないから」

一つため息をついた彼は面倒そうに眉を顰める。まぁ、いいんだけどさ。

「正直モテるじゃん、紬は」
「…だろうね、」
「菅原先輩だって満更でもないでしょ、絶対」
「どうなんだか。俺にはちょっとわかんないよ、菅原さん。」

縁下がどこまで知っているのかはわからない。でも煮え切らない対応を見ると、どっちつかずな対応をされていることは知っているんだろうな。同級生の男だったらそんなはっきりしないやつやめてしまえ!って言いたくなるような態度だけど、身近な、しかも部活の先輩となるとそういうわけには行かない。

「彼女とかはいないんだよね?」
「そういう話は聞いたことないけどね。田中とかも知らないって言ってた。」
「縁下もっとアシストできないの」
「いや、それは違くない?」
「……だよねえ」

うーんと頭を抱えて気づく。そういえば私は他のクラスに教科書を借りに行く途中だった。

「モタモタしてると絶対例の幼馴染に取られるよ」
「例の、って」
「…イケメンセッター?」

ハッとした様子の縁下は、すぐ見るからに嫌な顔をした。なぜかわからないけど烏野バレー部はみんなその人のことが苦手らしい、と紬が言っていたことを思い出す。

その人と比べたら菅原さんと幸せになってくれる方がいいんだろうけど、飯田からしたらイケメンの幼馴染なんて万々歳じゃないかと思うのだ。紬の性格とか小さい頃から知っているんだろうし、それでもなお好きがそんなに溢れ出てるなんて最高じゃない?何より騒ぎ立てられるほどのイケメンなんて。

「(そのままなんて、勿体無いよなあ…)」
「飯田は紬の味方なんじゃないの」
「私は紬と菅原さんの味方じゃなくて、紬の味方だから。イケメンセッターの方が幸せにしてくれるならそっちの方がいいと思うけど。」
「なるほどね。でも、俺はやっぱり菅原さんとうまくいってほしいなって思うけどね」
「それ本音?」
「当たり前でしょ。」

ふーん、と軽く流しながら、結局本心なんだろうなと思う。結局縁下が紬のことを恋愛感情で好きかどうかは掴めなかったけど、仮に彼が好きになったのは菅原さんのことが好きな紬なんだと思うから。だったらそうなるよね、私も気持ちわかる。

「わかるよ、大変だねお互い」
「?」

話の中心であるクラスメイトが呼び出されていた職員室から帰ってきた。話はそこで中断。私はこれから3組にいって教科書を借りてこなければならない。西谷だったら置き勉してるだろうから貸してくれるかな。ついでに西谷にも色々聞いてみよう、と飯田は思った。

「紬、私たち頑張ろうね」
「え?」
「絶対幸せになろう」
「…?うん、幸せなろうね」

何が何やらわかっていない紬の頭をぐしゃりと撫でると、よくわからないなりにふにゃりと笑みを浮かべた。「うん、やっぱり私の友達って可愛い」なんて脈絡のない飯田の言葉に、紬はまた首を傾けた。
話の脈絡はわからないけど、何のことを話しているかはわかる。きっと恋バナだ。

その様子を眺めていた縁下も同様に、紬のことを考える。泣いたり笑ったり悩んだり大変だなと思うし、自分自身はお世辞にもそんな経験したくない。それでもあの子はいつも楽しそうで、キラキラしているから、少しだけ羨ましくなる。恋とか愛とかはわからなくても、ただそれだけ。どうしても彼女の問題に足を踏み入れてしまう。

「(だからいろんな人にそう言われるんだろうな、)」

そんなことをぼんやりと考えながらまた、きっとまたいつも通り世話を焼くのが彼なのだ。
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