「ブツブツブツブツブツブツブツブツウッゼェエんだよおかっぱ!てめえデクか!女版デクかコラァ!」

爆豪が爆発した。
よくある光景と言えばそれまでだが、怒りの矛先は緑谷でも、他のクラスメイトでもない。宮下より子だ。
おかっぱと呼ばれたその子は、文字通りのボブカットの女子。どこからどう見ても普通の女子高生だが、中身はとんでもない“個性”オタク──からの黒影オタクだった。
体育祭で常闇の“個性”を目にしてから心底惚れ込んじまったらしく、サポート科だというのに足繁く通っては常闇、もとい黒影と親交を深めている。
最近はそこに緑谷も加わっているから始末が悪い。アイツはA組一の“個性”オタクだし、爆豪はやたら緑谷に突っかかるところがある。
とは言え、敵顔負けの凶悪ぶりを物ともせず、宮下は泰然としていた。

「なんですか爆豪勝己さん。わたしあなたには興味ありません」
「ンだとコラ。こっちだってねーわ!シカトし殺すぞ!」

なんだよシカトし殺すって。
興味ないとの言葉通り、宮下はさっさと黒影観察へと戻る。ワナワナと怒り震える爆豪。これじゃあシカトし殺されんのは爆豪のほうだ。
つーか、全く動じないどころか、いやにつっけんどんな感じじゃなかったか。
常闇だけでなく誰に対しても人当たりの良さそうなイメージなのに、ちょっと意外だった。相手が爆豪だから仕方ないっちゃないが。

「オマエモ飽キネエナ」
「黒影ちゃん、なんか語彙増えました?成長とかするんですか?」
「アアッ、宮下、ウシロウシロ〜!」
「なァ〜〜〜にシカトこいてんだ、このアマ……」

爆豪が手のひらで軽く爆破を起こしながら、どえらい表情で迫っている。クラスメイトという贔屓目に見ても、ヒーロー科の素行にはとても見えねえ。
さすがに止めようかと思った矢先、常闇が口を挟んだ。……いや、嘴か?

「止せ、爆豪。彼女はヒーロー科ではないし、恐らく悪気もない」
「だったら何だ。ヒーロー科じゃねえ奴がヒーロー科でペラッペラおしゃべりしててもいいってか」
「おしゃべりとは失礼な。わたしは今後のために黒影ちゃんの研究を──」
「それがウゼエって言ってんだよ」
「そうですか。それでは」

宮下がふたたび黒影の方に向き直ると、常闇が呆れたように言う。

「お前もわざわざ火に油を注ぐことを言うんじゃない」
「だって〜〜〜〜〜」

「ヨシヨシ」と頭を撫でる黒影に、「やれやれ」と目を細める常闇。最初の頃に比べれば、ずいぶん仲が良くなったように見える。常闇のほうが折れた、って感じだけど。
なおのこと、爆豪への態度に違和感がつのった。

「つうかさ、宮下って、なんか爆豪に厳しくねえ?当たり強いっつーか」
「え?」

思い切って聞いてみると、隣で「俺もそれ思ってたわ」と上鳴が笑った。
当の本人は、一瞬目を丸くさせてから、気まずそうな表情を浮かべる。……なんか悪いこと聞いちまったかな。

「べつに、そんなんじゃないんですけど……」

2、3度、常闇と爆豪を見比べて、ぼそっと呟いた。

「……ちょっと相性が良かっただけで、黒影ちゃんと常闇くんに勝った気でいるのが気に入らない、です」
「あァー?」

明らかに不服そうな声をあげたのはもちろん爆豪だった。

「勝った気っつーか大勝だろーが!俺の!」
「如何にも。あれは俺の実力によるものだ。大敗を喫したことを認めている」
「でも!でもでも!黒影ちゃんが負けたままなんて嫌です!黒影ちゃんだって常闇くんだってそうでしょう」

常闇は考え込むように、口元に手を当てた。
口ではああ言ってるけど、否定しないあたりアイツも相当な負けず嫌いだ。俺にはわかるぜ。その気持ちも、悔しさも。
常闇の返答を待たずに、宮下は爆豪を見て強い口調で言う。

「黒影ちゃんは爆発に負けないくらい強くなるんです。サポート科の意地……いいえ、黒影ちゃんファンの意地です。わたしがサポートし尽くしてみせますよ!」

そこはサポート科の意地でよくね?

「頑張りましょうね黒影ちゃん!」
「戻れ黒影……」
「ああご無体な!」

そんなやりとりをしているうちに、とうとう予鈴が鳴った。熱い抱擁を交わし合い、涙の別れまでがいつもの流れ。もちろん対象は黒影だ。
突然の「ギュってしてください」に慣れてしまった俺たちもそうだが、常闇も常闇だ。最初こそ動揺を隠せないでいたが、今や涼しい表情で腕を組み、黒影に全てを委ねている。今更ながらすごい“個性”だ。

「はっ、せいぜいあがけ三下ども」

爆豪は先ほどまでの凶悪な面から一変して、凶悪な笑顔になっていた。
まあ、こうやって競い合うのも悪くないよな。むしろ、そういうの好きだぜ、俺。

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