>>押しに弱くて
ほとんど徹夜だった。
自分の書いたものを校正するのに一時間。それから推敲に数時間。この作業を始める前に学校の課題などを終わらせるのにも苦労した。おかげで、授業中は眠くて仕方ない。
一日中眠気に悩まされつつ授業を受け、今だに抜けないぼんやりとした体の眠気を引きずりながら、なんとか図書室にやって来た。
ミランダ先生は私をみてぎょっとした。

「古市さん・・・!? だ、大丈夫? 昔の私みたい・・・!! とにかく眠らないと、」

「大丈夫ですよ。あっちで寝ます。」

「でもそんな姿勢で寝たら・・・」

おろおろするミランダ先生をなだめて、私は一センチにも満たない紙の束を抱えて、奥の机と椅子があるスペースへ向かった。
神田君はまだ来ていない。いつも、図書室へ来るのは私が一番乗りなのだ。
彼を待つ間、私は少し、ほんの少しだけ仮眠を取ることにした。
タオルをテーブルの上に引いて、そこに突っ伏す。すぐに、意識が温かい何かにくるまれていったのだった。


*


とんとん、という振動が頬や耳につたわって、目を開けると、神田君がいた。
びくりと跳ね起きる。
神田君は、私が急に起きるとは思わず驚いている。私は、紙の束が彼に握られていることに気がついて、瞬間自分の顔が熱くなった。

「もしかして、もう、読んだんですか・・・?」

思わず声が震える。神田くんは、なんともないように頷いた。

「率直にいって、」

「ま、まって・・・!!」

私は思わず神田君の両頬を挟み込んだ。咄嗟に思いついた行動は、なんだか失敗した。これではせっかくの美形が台無しだ。それでもかっこいいけど。

「心の準備がまだなので・・・」

少しばかり台無しな顔のまま、神田君が頷くのを確認して、私は手を離した。私はじっと待っていてくれる神田君から少し体を背けて深呼吸した。それと同時に思わずあくびが出る。昨夜も、あくびを何度もしては、コーヒーを体に流し込んで、がんばった。せっかくがんばったのだから、やっぱり感想が聞きたい。緊張はするけど、向き合いたい。
私は息を吐き出して、神田君に向き直った。

「お願いします。」

改めて言うとプレッシャーを与えてしまうようで申し訳なかったが、きちんとした感想を聞きたかったので私はだいぶ重々しい口調でいった。
神田君は再度頷いて、口を開いた。

「率直に言って、面白かった。」

「っ!」

私は何か言いたかったけど思いつく言葉がなくて、挙動不審に陥った。ありがとうとか、謙遜の言葉とか、そういう本心なようでいて本心ではない言葉は言いたくはなかった。面白いと言ってもらえてうれしかったのだけれども、うれしいの言葉の背景にあるものも伝えたくて、でも一息に言ってしまいたいのに一息で言えそうな言葉が見当たらなくて、何をやっているんだ私、と自分を叱責したくなる。

「これを、演劇に使わせてほしい。」

「えっ?」

結局、感想をもらえたことに対する何かしらが言えずに、神田君の話が進んだ。

「これを演劇に・・・?」

「ああ。」

「!!」

私は思いきり首を振った。

「せっかく面白いんだ。本当はそのまま出した方がいいだろうが、演劇でも使わせてくれないか。」

「そもそも、これはただ、趣味で・・・えっと、だから本当は誰にも見せるつもりなんかないんです。」

「なら尚更、演劇で使わせてくれ。発表しないのはもったいない。」

私は迷った。神田君の言葉は本心のようなので、考えもせず断るのは失礼だと考えてのことだ。

「えっと・・・」

私はとりあえずなんと言おうか迷った。どう伝えればいいのか、困る。

「面白い作品だ、これは。できるだけ内容に忠実にする。」

私が迷っているのが、許可するかどうかについてだと思ったのか、神田くんはさらにたたみかける。私が待ってと言おうとしたときにちょうど神田くんが口説いてくるので、私はだんだんと断りづらくなっていた。

「じゃ、あ・・・よろしくお願い、します。」

許可を出してしまった。
また今回も神田くんになよなよと従ってしまった。声だけじゃなく、彼の熱意にも心動かされてしまったせいだ。

神田君は、演劇部の他の人に見せるというので、そのまま私が書いたものを持ち去ってしまった。私はほかの演劇部に読まれるのかと思うと、正直このまま姿を隠してしまいたくなったが、また明日、神田君がここに来て、打ち合わせがしたいというので、隠れることはできそうにない。神田君の頼みを聞き入れたために、私は最後まで見届けなければいけない義務ができてしまったきがする。

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