>>うれしいこと
リナリーちゃんとラビ君が、おそらくデートと呼べそうなものに乗り込んでくる。そしてデートを盛り上げようとカラオケに連れ込む気だ。この計画を知っている私は、神田くんにどう伝えればいいか迷っている。だって、神田くんの機嫌が悪くならない訳がない。もともと神田くんは、私と二人きりがいいのだということは誰の目にも明らかだ。

そう、誰の目にも。それをわかっていてリナリーちゃんとラビ君は乗り込んでくる。半分からかいが混じっていることはわかっている。でも半分は神田くんを応援したいという気持ちがあってのことだとわかっている。だから余計、二人を拒絶して、がっかりさせたくない。私はいったい、どうすればいいのか。

結局ありのままを話すしかなくて、かくかくしかじかと順を追って説明した。

「マジかよ……」

神田くんはこの言葉以来、しばらく絶句した。
ちなみにこれを伝えているのはデート当日の朝のこと。メッセージで伝えるという手もあったけれど、今朝まで言い出す勇気がなかった。

「今日まで言い出さなくて、ごめんなさい」

「……別に……。お前のことだから、いろいろ気にしすぎて言えなかったんだろ」

図星だった。神田くんのうんざりしたような、すごくがっかりしたような顔が心に刺さる。
神田くんが私の人柄をよくみているという事実もでてきて、余計に、申し訳ない気持ちが増す。

「……まあ、いつわかったとしても、あいつらに邪魔させるつもりねえから。いくぞ」

次の瞬間には神田くんは切り替わっていた。きっぱりというと、もう歩きだしている。私だったら、まだまだ切り替えれていなかっただろう。いつもくよくよ悩まず、答えがはっきりしてて、神田くんはかっこいい。

こんなかっこいい人が私を好きでいてくれるなんてもったいないとしか言いようがない。リナリーちゃんとか、もっとはつらつとして、神田くんにお似合いな子はたくさんいるのに。

「予定通り、映画にいく?」

私は思ったことを振り切るように神田くんに話しかけた。

「そのままいく。あいつらのせいで予定を狂わされるなんてごめんだ」

「わかった」

神田くん、以外と強い。

「それじゃあ、どうするの?」

神田くんがどうするのか気になって聞いた。本音では、神田くんにカラオケ行きを阻止してほしいと思っていた。

「あいつらがしたいようにさせとけばいい」

「つまり……みんなで一緒にカラオケにいく、と」

カラオケが苦手だと少し言ったけど、やっぱり覚えていないのだろうな。そう思いながら確認をしてた。

「お前が歌わねえのに、いく必要はないだろ。あいつらは、ついてくるのが目的なんだから、適当についてこさせておけばいい」

でも、神田くんは覚えていてくれた。嬉しくなる。少し、顔があつくなる。

「とりあえず、映画」

映画館の前までやって来たとき、神田くんは隣であるく私の腕にそっと手を添えて、映画館へエスコートした。

映画は、自然な流れで恋愛ものを見ることになった。神田くんが好きじゃないかと思ったが、どうやら、演技派の俳優と女優が出ている他、ストーリー構成も評判らしいので、それが見たいらしい。しかもその映画、小説が原作だった。私は読んだことはなかったが、たぶん、映画を見終わったら購入して読んでいることだろう。

チケットを買ったあと、少しだけ入場まで時間があったので、ロビーで二人で過ごした。

「何か買わなくていいのか」

「私は……飲み物だけでいいかな、あとで一緒にお昼食べるし。神田くんは?」

「俺も飲み物だけでいい」

「私に遠慮してるなら、気にせず買ってきていいよ?」

「いや別に。そもそも、映画をみながら食べるのは好きじゃない」

「そうなんだ。実は、私も」

「そうか」

こんな他愛もない話をぽつりぽつりと続けた。もともとおしゃべりじゃないとわかっていたから、少し気が楽だ。

「あ、そろそろいこうか」

アナウンスが始まったので、私たちは入った。
移動中や、映画が始まるまで、私たちはずっと会話がなかった。少しだけ気になったけれど、でもあまり苦痛ではなく、私は自然に過ごせた。

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