>>ポーカーフェイス
あれからなんとか神田くんをなだめた(ティエドール先生は悪気はないのだろうけど発言の一つ一つが神田くんを怒らせてしまうので余計時間かかった)。
神田くんの怒号で集まった美術部員などもなんとか追い返して、すぐさま神田くんの彫刻をティエドール先生から没収した。

ティエドール先生には改めて絵のことは頼んで、彫刻と一緒に私と神田くんは美術室外の廊下から踊り場のところまでやって来た。ブルーシートとハンマーを二人で美術室から持ってきて、これから壊すのである。ティエドール先生が三十分ほどで仕上がるというからその間に壊してしまう。

「本当に壊しちゃうの?」

と私は聞いてみる。神田くんは「あたりまえだろ」と顔だけ布を取り去って、彫刻の自分の顔を睨み付けている。

「こんなん、他の奴に見られてたまるか」

「た、たしかにいやだね…………」

私だって自分そっくりの顔をしたしかも裸の彫刻なんて見たくない。

「本当にごめんね神田くん」

「あれは……仕方がなかった」

神田くんを見ると少しだけ顔を赤くしていた。仕方がないというけどやっぱり恥ずかしかったにちがいない。

「それじゃあ壊そうか」

神田くんは頷いて、まず顔にハンマーを振り下ろした。
なんのためらいもない、鮮やかな一発で顔の四分の一が崩れ去る。ガシャンという音は結構大きくて、私は驚いた。

「神田くんの顔が……」

「ただの彫刻だ。気にせず振り下ろせ。……でもこっちは俺がする」

神田くんは彫刻の下半身の方へ移動した。たしかに私がするより神田くんがした方がいいだろう。私は頷いて、恐る恐る神田くんの顔を壊しにかかる。
思いきれず、最初の一発はかつんと音が鳴っただけだった。

「もっと、強く」

神田くんに言われるが、私はやっぱり思いきれない。少し強めに叩いたが、ヒビをいれるだけにとどまった。それでも私は緊張してしまう。

「一回、慣れたほうがいいな」

神田くんはそういってハンマーを握る私の手に自分の手を重ねた。神田くんの手はかさついて、大きくて、熱かった。しかもお互い右利きだから、神田くんは私の後ろに密着する。
そういえば彫刻を見てしまったときもだったけれど、神田くん、何気に後ろから結構密着してる。こういう展開、本当にあったんだ、と心のなかでメモをする。だって何かを書くときに使えるかもしれないから。

「いくぞ、」

といって神田くんに手を振り上げさせられ、振り下ろされる。彫刻にあたる、と思ったときには目を瞑ってしまった。
でも感触はもろにきた。ガシャンという音と、手に来る反動。

「……目、瞑ってたな、もう一回」

「えっ?」

「閉じてたら意味ないだろ、今度は開けとけよ」

といって神田くんにもう一度手を振り上げ、振り下ろさせられた。
今度は目を開けておけた。

「一回思いっきりやってみると、次からは抵抗が薄れてくるだろ、さっきみたいな感じで、やってみろ」

「うん」

言われた通り、神田くんの補助があったとはいえ、目の前で壊し、しかもその感覚が自分の手の中にあると、戸惑いが薄れた気がする。
手の甲はまだ少し温かくて、神田くんに触れられていたのだと思うと少しだけ意識してしまう。これが単に異性に触れられたからなのか、神田くんだからなのか、よくわからない。

「どうした、まだ慣れないか」

「ううん、大丈夫、次からはできるよ」

右手をじっと見つめてしまっていた私は、はっとして神田くんに返事をして、作業を始めた。

「神田くん、結構壊すことになれてる?」

「まあ、演劇で使った大道具とか、壊すことあるからな」

「ああ、それで。私、物を壊すってなかなかないから、ちょっと戸惑っちゃった。しかも誰かが一生懸命作ったものだから、なおさら」

ティエドール先生はたぶん思いを込めて作ったのだろう。本当は人の作品など壊してしまいたくないのだが、今回だけは仕方ない。だって神田くんをモデルにしていて神田くんは一切了承していなかったことなんだから。

「まあ、最初は誰だってそうだ」

「そっか」

それから黙々と私たちは作業を続けて、全部粉々に砕いてしまった。

それをごみ袋にまとめて、あとはそのごみはティエドール先生に託す。彫刻の捨て方って、いまいちわからないけど、燃やすごみではないことぐらいはしっている。学校では燃やさないごみを集めていたかどうかはわからない。ティエドール先生はお詫びとしてあとはしてくれるらしい。

彫刻を壊している間に先生は色まで塗って完成させていて、しかも美術室のスキャナーでデータ化までしてくれていた。私たちはお礼をいい、絵のデータと交換で彫刻の残骸を渡した。先生は悲しそうに涙を流した。抱える必要のない罪悪感に悩まされながら私は神田くんと美術室をあとにした。

黒影会館の方へ帰る途中、

「結局、俺の嫌な予感は的中したよな」

「あ、うん、そうだね」

「だから……どっか、行ってくれるんだよな」

「うん、約束だし」

「どこがいい」

「えーっと……どこだろう、カラオケ、とか? あ、ごめん適当なこと言った! 私、歌は苦手なのに」

「じゃあ映画とかか?」

「神田くんって映画見るの?」

「上手い俳優が出てるやつとかは」

「なんか、神田くんってストイックなイメージあったからあんまり娯楽とか興味ないのかと思った」

「いや、それなりに……って、それで結局、映画でいいのか」

「うん、じゃあ映画に。何を見るかはまたあとでね。それと連絡先も交換しておこう」

「わかった」

大分あとでラビくんが教えてくれたんだけど、このあと私の知らないところで神田くんはじっと私の連絡先を見ては嬉しそうにしていて、それを隠すために表面上はすごく不機嫌だったらしい。

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