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 本当に、これで終わったのだろうか?
 どうも釈然としなかった。

 * * * *

 今日の講義が一通り終わり、亜沙子は大きく伸びをした。帰宅したあとも休む暇なく、勉強に励まなければならない。
 成績表は実家へも郵送される仕組みになっていて、酷い告げ口のシステムだと亜沙子は不満だった。もう大人なんだから、親に報告なんてしてほしくない。
 成績が下がると、父はいつも怒るのだ。
「亜沙子」
 別の教室で講義を受けていた香織が、美樹をつれてやって来た。テスト前だからか、お互いやつれ気味だった。
「どう? 調子は」
「最悪。テスト前だっていうのに、ごたごたしてテストどころじゃないって感じ」
 成績が悪ければ、原因リストに宮川と黒峠を加えて責任転嫁してやろうと思った。
「そういえば、ストーカーの件はどうなったのよ」と美樹。
「ああ、それ。たぶん解決したと思う」
 曖昧な亜沙子の答えに、二人は顔を見合わせていた。帰ろうか、と鞄を持ち上げると、香織が指で亜沙子をつついた。
「いいの? 待ち合わせしてるんでしょ」
「待ち合わせ?」と亜沙子は繰り返す。「誰が」
 香織と美樹は同時に亜沙子を指さす。待ち合わせなどをした覚えはない。
「私が誰と待ち合わせしてるのよ」
「黒いロングコート着た男の人」
 それを聞いて、驚きのあまり息が詰まった。一番知られたくない秘密を知られてしまったような衝撃を受けた。
「ど、ど、どうして。どう……どういうこと? 何でその人知ってるの?」
「私の友達が見たって言ってたの。亜沙子が黒いコートの人と図書室に入って行くところ」
 目撃されてしまったとは。しかしあれだけ目立てば無理もないかもしれない。変な噂が立たないように対策を立てねばならない、と頭を働かせ始めた亜沙子だったが、「待ち合わせ」という部分に首を傾げた。
「待ち合わせって?」
「今日、ずっと図書室にいるらしいよ。亜沙子のこと、待ってるんじゃない?」
 ショックが重なり、心臓がばくばくと過剰に動いている。一気に気分が悪くなった。
「何で図書室にいるのよ」亜沙子は苦々しい思いで呟いた。



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