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 黒峠に思い出した内容を告げると、どういうわけか納得がいかなさそうに首を傾げた。
「わからないなぁ」
 なにがわからないのかは聞くまでもない。またしても失礼な発言をしようとしている。そしてその予感は的中した。
「その男子生徒は見る目がないね」
「そうですね。黒峠先生に相談ごとをする私も見る目がないんだと思います」
 すかさず亜沙子が反撃する。そんな二人を円が苦笑しながら見守っていた。
「彼が君のどこを気に入ったのかは理解できないが、可能性はゼロでもないな。その生徒は何ていう名前?」
「確か……宮崎、でした」
 下の名前も名乗っていたかもしれないが、慌てていたせいか記憶にない。少し申し訳なかった。
「宮崎君ね」と黒峠は頷いた。「よし、君のためにわざわざ私が調べてあげよう」
 恩着せがましい言い方も毎度おなじみである。腹は立ったが一応、頼む立場なので頭は下げておいた。心配ごとが一つでも減るならそれにこしたことはない。今までの実績から、過度な期待はしていないが。
 円にいれてもらった紅茶を飲んでいると、外から賑やかな足音が近づいてきた。
 ドアが開き、騒々しく飛び込んできたのは円の小学生の娘里沙と、里沙と同じ歳くらいの男の子だった。
「パパ、ユキ! ちゃーは見つかった?」
「ここだよ」
 黒峠が足下を指さす。黒猫は黒峠の下で丸くなっていて、里沙と男の子が駆け寄った。男の子が嬉しそうに猫を抱き上げる。どうやら彼が猫の飼い主らしい。
「おじさん、ありがとう。よくわかったね、ちゃーがどこにいるか」
「他の人とはココが違うからね」
 黒峠は得意げに自分のこめかみをつついている。気が違っているという意味だろうか?
 猫を見つけたのは私なんですけど、と亜沙子は口を尖らせて黒峠を見る。男の子は愛おしそうに猫を抱きしめてから、ポケットをさぐって何かを取り出した。それを黒峠に手渡す。
「これ、報酬だよ」
 亜沙子がのぞいてみると、黒峠のてのひらにのっていたのはチョコレートだった。
「ありがとう。チョコレートは大好きだよ」
 黒峠は笑ってチョコレートを口に放り込むと、「おいしい!」と言って男の子の頭をくしゃくしゃと撫でた。虫の好かない男だが、こういうところがあるから憎めない。どうして子供には優しくできて、私には優しくできないのかしら、と不満は膨らむばかりだったが。
「それから……」



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