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 パソコンに向かっていた円が立ち上がり、数枚の紙を黒峠に渡す。亜沙子はせんべいをかじりながら覗きこんだ。何人かの名前が並んでいる。一番上には怪しい文章があった。

『今こそ立ち上がれ国民よ。新たな国を目指し、我らと共に歩もう。新たな国で新たな指導者と共に、夢の国を作ろうではないか。この世のからくりは全てこのカラクリにあり』

「気持ち悪い」亜沙子は率直に感想を述べた。黒峠は満更でもないような顔をしている。
「いいねえ夢の国。どんなものか見てみたいな」
 これは哲学倶楽部カラクリの資料らしい。形に残るような活動をしていなかった彼らだが、個人のホームページにこのようなものが載っていたらしい。パスワードを知る倶楽部のメンバーだけが入れるページだ。円がどのようにそのページにたどり着いたのか興味はあったが、聞かない方がいいような気もしたので触れないことにした。
 カラクリの教祖的存在であった山岡省吾は、十年前に自殺したらしい。理由はよく分かっていない。山岡は「皆がより良く暮らすことが出来る夢の国を作る為の費用」と称し、メンバーから多額の寄付金を徴収していた。夢の国がどういうものなのか、具体的には記されていない。
 カラクリの数人は寄付金を遊興費としてつかいこんでいたが、それだけでは足りず様々な犯罪に手を出した。メンバーの一人が警察に相談し、「カラクリ」という存在が世間に知られることにはならなかったが何人かが逮捕、指名手配され、結果哲学倶楽部カラクリは解散することになった。
「これは推測なんだけどさ」黒峠が言った。
「カラクリは解散したけど、その中の何人かはまだ連絡を取り合っているんじゃないかと思うんだ。今回の子供の行方不明事件とカラクリは何か関係がある。カラクリの誰かが何らかの目的で子供を誘拐したんだ。重村も仲間だった。が、揉めたんだろうね。そして殺された」
 全くあり得ない話ではない。重村が殺された現場に妙な言葉が書かれた紙が落ちていたと言うし、カラクリはとにかく怪しかった。
 続きは明日にしよう、と言って黒峠はため息をついた。まだ続くのか。こんな物騒な件からは早々に手を引きたい。だが、友美の為だ。頑張るしかないだろう。友弥さえ見つかれば、黒峠とはおさらば出来る。



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