01 再会


 今日の講義は午前で終わりだ。久々に、あの事務所を訪ねてみようか。
 亜沙子は緑色のシャープペンシルを片手に、ぼんやりと窓の外を見ていた。
 あれからもう、一年経つ。
 高校生だった亜沙子の周りで、とある怪奇現象が起きた。人々が変になってしまうという怪奇現象だ。しかも、その現象に気づいたのは自分だけ。両親も友人も変になり、途方に暮れていた亜沙子の前に現れたのは、一人の変人だった。彼の名前は黒峠有紀という。職業は探偵だ。ボランティア探偵で、彼は報酬を求めない。
 黒峠という男は見た目や言動、とにかく全てが変だった。しかしその変人のおかげで、事件は無事解決した。事務所に泊めてもらったりと、世話になった。
 その後何度か事務所を訪ねたのだが、いつも黒峠は留守だった。いなくなってしまったのかと思い近所の薬局の店主に尋ねてみると、彼はまだそこにいるらしい。亜沙子が訪問する時に限って留守なのだ。わざとかと思うくらい、いつ訪ねても留守だった。
 それにしても、一年前のあの事件は悪夢だった。解決してからも暫くは悪夢にうなされた。両親が変になっていないか毎朝確かめ、胸をなで下ろす日々が続いたのである。
 無事に大学には合格したものの、授業は難しく、ついていくのは大変だった。大学生になれば受験地獄から解放されて素敵なキャンパスライフを送れるかとおもっていたのだが、現実はそうではなかった。こんなことならもう少し偏差値の低い学校に行くべきだったかと後悔することもある。特に必修科目である外国語には苦しめられていた。
 高校の時先生は、「大学に行けば好きな科目を履修できる。好きな勉強ができる」と言っていたが、あれは嘘だと亜沙子は思った。外国語なんて学びたくはない。確かに選択できる科目もあるが、一年生は必修科目が多いのだ。これからの社会、語学力が求められるのは分かっているつもりだが、どうにも外国語、特に英語は学ぶ気になれなかった。難しい。さっぱり分からない。暗記しても暗記しても、単語が忘却の彼方に消えていく。忘れた単語を覚えなおす。これの繰り返しだ。
 私、これからどうなるのかしら。もしかして留年したらどうしよう。お父さんが怒るだろうな。授業に集中しないと。集中しないと。でもどうしたら集中できるんだろう。授業中に眠くなる体質は、高校生の時から変わらない。
「ねえ亜沙子、ちょっといい?」
 気づけば講義は終わっていた。いつ終わったのか記憶にない。全く集中していなかったようだ。友人の羽田友美が頭を抱える亜沙子の肩を叩いた。
「どうかしたの? 亜沙子」
 友美は大学に入って一番にできた友人だ。髪は短く、いつもボーイッシュな格好をしている。目が大きくて可愛いんだから、もっと女の子らしい格好の似合うのではないかと亜沙子は思っていた。本人はスカートは恥ずかしくてはく気にならないと言う。



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