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これのつづき

lower lawer of white






 飛鳥がベリアルの家を去ってから、天国の上層部に着くのに約1時間かかった。
酷使した翼を労りながら、踊り歩く天使とカラフルなイルミネーション、屋台や歌で盛り上がる中心街を飛鳥は1人歩いていた。


「……宇佐見?」
「…お、久しぶりっ!」

背後からかけられた声に振り返れば、顔見知りの天使が居た。汚れた作業着を着た彼は飛鳥の隣に並ぶ。

「お前ちゃんと高校行ってんのか?」
「行ってるよ失礼だなぁ、午前は一応」
「…午後も行けよ」

飛鳥は彼の名前を知らない。彼は飛鳥が高校生であることと苗字、そしてある程度の性格こそは知っていたが、それ以外においては初対面の相手のさほど大差ない。飛鳥と彼はたまたま飲食店で隣の席に座って会話をした、といったような間柄でしかなかった。

「今日はどこ行くの?」
「せっかくの"眠らない日"なのに0時に閉まる店」
「えっ、なにそれ。まさかすぎるね」
「特にどこ行くか決まってねぇなら来たら?」
「じゃあそうする」

飛鳥には彼のような知り合いがたくさん居る。高校のクラスにすら親しい友達を作らないのは、2度会う保証のない相手の方がなんでも話せると思っているからだった。



 彼らの目的の店は、色とりどりの明るさを放つ街路樹に隠れるようにひっそりとたたずんでいた。
 カラン、と音を立てる入り口を過ぎて、空いてる席に座る。カウンターで女を口説く者も居れば、ビールを片手に歩き回って話す者も居て、飛鳥は単純におもしろい店だと思った。

「ここに来るってちゃんと親に言ったのか?」
「おまえー、お母さんみたいなこと言うなってー」
「うるせぇよ、言ってきたのか?」
「言ってない。下層部に行って、そのままここに来たんだもん」

適当に飲み物と軽食を注文した彼は、それが普通だと言わんばかりの飛鳥に溜め息を吐いた。

「お前のそういうとこってずれてるよな」
「えー、なんで? おれん家って放任主義だし大丈夫だって」
「そういう意味じゃなくてまず下層部に行くって時点で、………ああ、やっぱいい」

彼は眉間を押さえて呆れていた。
天国の下層部にある大きな森は地獄に近い上にたくさんの不気味な噂があるため、昼夜問わず訪れる者はほとんど居ない。そんな場所に1人で(誰に行き先を告げることもなく)行くことを問題とも怖いとも思わない飛鳥を、彼は少なくとも天使の枠からはみ出しているのだろうと思っていた。



「…う、宇佐見?」

 騒がしい店内で飛鳥にかけられた声に先に反応したのは飛鳥の隣に座る彼だった。

「宇佐見の知り合いか?」
「え、……あ…、はい、あの、大澤といいます。…宇佐見とは、クラスメイトで…」

しどろもどろになりながらも大澤はちらりと飛鳥を見た。飛鳥は大澤に気付くことなくぼうっと黒いコーヒーを見つめている。
彼は、飛鳥と大澤は単なるクラスメイトと認知した。

「どうした大澤ぁ? 友達か?」
「あ、クラスメイトの…」
「うわ、え! 宇佐見じゃん!」

大澤の後ろからやってきたその友達は飛鳥とは1年の時同じクラスだったらしい。大澤達は躊躇いながらも飛鳥と彼の近くに座って話し始めた。彼も交えて。飛鳥にも話を振ってみたり促したりしてみたが、ぼうっとする飛鳥を気遣って彼がさり気なく答えていた。
'13/11/02 10:00 Sat
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