落日に染まれ



花巻が土岐田の熱烈なファンであることは、本人が至るところで公言しているため有名な話だ。土岐田のデビュー作となった特撮ヒーロー番組がテレビ放映されたのは今から12年前で、土岐田より10才年下の彼は当時小学二年生だった。幼少の頃からずっと憧れを抱き続けて、土岐田が二年前に女性スキャンダルを起こして仕事を干されてもその思いは変わらないらしい。若手俳優の登竜門的存在の、人気アイドル雑誌のコンテストで優勝して華々しいデビューを飾った花巻は、土岐田が在籍するという理由で現在の事務所に入り、部屋こそ違えど土岐田と同じ、事務所が借りたマンションで暮らしている。華奢な体格で純真可憐とも評される美貌を持つ彼はなかなか押しが強く、土岐田に近付きたくて芸能界に入ったのだと言って、戸惑うような勢いで執拗なアタックを仕掛けてきたのだった。後輩に慕われることは初めてではなかったが、花巻のようなタイプは流石に居なかった。
土岐田が花巻と知り合って二年近く経つ。出会った当初は未成年だったのが二十歳を迎え、堂々と酒が飲める年齢になって、食事の席でビールを勧めた土岐田に酔った彼は好きだと告げた。肉体的な欲望をも含む恋愛感情の好意だ。土岐田は男を性愛の対象として見る性質ではなかったが、結果的に花巻の思いを受け入れることになった。三十路で落ち目の自分より若く前途洋々の彼が、なりふり構わず縋りついてくる様を見て、底意地の悪いことに気分が良くなったからだった。男同士では週刊紙にあれこれ書き立てられることはまずない。興味本位で私生活を事細かに暴かれた挙句、あることないことを面白おかしく書かれる日々はもう御免だった。
ソファーに座った状態で右手を取られて口に含まれながら、足元に腰を下ろした花巻の端整な顔を見下ろす。土岐田の人差し指と中指を舐めしゃぶる表情は官能的で、こんな変態じみた行為の最中でさえも美しかった。何をさせても憎らしいほど様になる男なのだ。
「ハナ、もう止めろよ」
「もう少しだけ」
生温く濡れた舌の感触に背筋がぞわりと粟立つ。身体を繋げるセックスはしたことがなかった。花巻は土岐田の全身を変質的な執拗さでもって愛撫しても、抱いたり抱かれたりという方法で自らの性欲を発散することがない。若いのに不能という訳ではなく、最後に感極まったようなオナニーを見せつけるだけなのだった。憐れな恋だと思う。


2014/05/10
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