crybaby



三ヶ月ぶりに会った天野は飲んで泣いて吐いて散々な有り様だった。美容専門学校時代から彼を知っているアキでさえ、初めて見るほどの荒れっぷりだ。
元カノと二股をかけられた挙句、よりを戻したという理由で彼氏に振られたらしい。だからバイの男なんか止めておけと言ったのに、顔も知らない相手の男を罵るアキを意地悪だと天野は言う。意地悪な人間がこんな風に延々と愚痴を聞いてやって、泥酔した友人の介抱なんてするものか。
バーのトイレで吐いて動けなくなった天野を個室から引っ張り出した際、涙と涎と吐瀉物でぐちゃぐちゃの顔を擦り付けられた所為で、しつこいほどおしぼりで拭った後も未だに服が臭う。泣きながら嘔吐して疲れたのか、汚れた顔を拭いてやると天野は寝てしまった。
女受けする端整な顔立ちも泣き腫らした瞼と汚物臭で台無しだが、彼はアキと同じで男しか愛せないネコだから、女に特別な好意を寄せられても応えることは出来ない。
知り合ってまだ間もない頃、酔った勢いで襲いかかったアキに対し、申し訳なさそうな表情をした天野は、男同士という理由ではなく『自分もネコだから』と理由で行為を拒んだのだった。あの時踏みとどまったおかげで、八年経った現在でも彼と友人関係を続けていられる。
後腐れのない男を好むアキとは対照的に天野はロマンチストで一途だが、付き合う相手が悪く、五年ほど前に別れた男は浮気性のヒモだった。今回別れた男とは一年二ヶ月付き合ってこの結果だ。
天野を見ていると、無防備に腹を見せる犬や猫の感触を思い出す。温かくて柔らかくて心許ない。小さな生き物に似た、庇護欲を掻き立てる愛らしさが彼にはあった。そのくせ情が深くて尽くしたがりで、駄目な男にばかり惹かれるから放っておけない。
アキの傍らで細長い身体を窮屈そうに丸め、バーのソファーに横たわっていた天野が不意に目を開く。幾分酔いが覚めたらしく、顔つきも先程と違って見えた。

「ごめん、あきお」
「昭雄って呼ぶな。お前、二十八にもなって吐くほど飲むなよ」
「うん。暫くお酒止めようって思った。でもさ、アキが居てくれて良かったよ。ありがと」

横になったままの姿勢で彼はそう言って鼻をすする。落ち着いた雰囲気の割にこういう仕草が妙に子供っぽい。アキがテーブルの上の新しいおしぼりを無言のまま手渡すと、薄赤い目許や鼻を拭って天野はため息を吐いた。

「今日、アキの家泊まっていい?」
「振られたばっかのくせに、もう違う男と同じベッドで寝んのか」
「一緒に寝てアキが何もしない男って僕だけだよね」

何もしないというより出来ないだけだ。触れ合えばアキはすぐ挿れて欲しくなるし、奥手の天野は恋愛感情がない相手とセックスしたいとは思わないだろう。好きな男と何も出来ないというのは結構つらい。アキの気持ちは純粋な友情とは少々違っていた。

「いつかパンツ脱がしてやる」
「脱がしても多分楽しくないと思うよ」

漸く起き上がって乱れた髪や着衣を直す天野は僅かに笑っている。冗談だと思っているらしい。男と別れて傷心の彼が頼る唯一の相手はアキだから、同じベッドでただ眠るだけで何もせず、戻ってくる場所を残しておいてやることが愛情の証かも知れないと思った。



2012/03/28
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