ついてくるの
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  ここは、デジタルワールドという完全なる異世界。基本的に「デジモン」しか住んでいない。そこでこうじさんはスピリットと呼ばれるものを手に入れて、戦っている。それがこうじさんが言っていた事実だった。こうじさんたちは、わたしとは違ってあのメールに「YES」と選択したみたいだった。
 皆は、選んで来た。――わたしみたいな人が迷い込んではいけない世界、だった。それなら、帰りたい。
 家に帰って、好きなことして過ごしたい。でも、戻る手段が分からない。道も、ここはどこだか分からない別世界。わたしは、帰れるんだろうか。本当に夢だったら、どれほど良かっただろうか。こうじさんは黙ってわたしを見ている。
 そのとき、だった。目の前が真っ白になったのと同時に、とっても大きな爆発音が聞こえた。それを聞いたこうじさんは、びっくりするぐらい早い速度で駆けていく。やばい、この人を見失ってしまったら迷子になってしまう。仕方なくわたしはこうじさんの跡を追った。元々わたしの走るスピードが遅いせいで距離は縮まらない。

 わたしが森を抜けると、そこにはさっきもいた人間さんと白いでじもんがいて、こうじさんも当然そこにいた。なにかよく分からないけど、木を模したでじもんと戦っているようだった。


「げっ、あいつは!」


 すると木のデジモンはそう言いながらわたしを睨みつけ、一直線にこっちに向かっていった。あいつとか言われてもわたしはあれにケチをつけられるような覚えはまったくない。ぼやぼやしているうちにも木の化け物は迫ってくる。


「え、」
「伏せろ!」


 そう言われて、咄嗟に身を伏せる。するとそれと同時に、頬に確かな痛みがあった。するりと頬を撫でてみれば、そこには血が、出ている。伏せて木の化け物の直接攻撃はまぬがれたけれど、頬にはかすり傷ができていた。今ここで起こっていることは、すべて現実だ。――こわい。足ががちがち震えた。
 こうじさんは元携帯だった機械を手にした。何かと思い息を切らしながら見ていると、こうじさんは「スピリット・エボリューション!」と叫んだ。するとみるみるとこうじさんの姿は変わっていき、大きな人型で、狼みたいな仮面をかぶったでじもん、になった。


「ヴォルフモン!」


 それが、あのでじもんの名前? それに、スピリットって、それがこうじさんが手に入れたといっていたものの力なのか。
 ヴォルフモンは木の化け物みたいなでじもんを前に、どんどん攻撃をし押していく。「リヒト・クーゲル!」とかどこかドイツ的な言葉を発しながら。すると、そのドイツっぽい技が木の化け物に効いたみたいで、技の当たった箇所からどんどん化け物にヒビが入っていく。


「闇に蠢く魂よ、聖なる光で浄化する! デジコード・スキャン!」


 とすると、待っていましたといわんばかりにヴォルフモンはそれをすきゃん、した。すると今度は、木の化け物だったものから三匹のキノコのでじもんが現れた。あっ、あのキノコのうちの一匹はさっきわたしを襲ったやつだっ。
 すると今度はヴォルフモンがこうじさんに戻った。展開が速くて、何がなんだかさっぱり分からなかった。こうじさんの携帯だったものが光り、こうじさんはボタンを押す。すると少し殺風景だった辺りは緑に包まれて、電車から降りたときにあった樹も、立派な樹になった。
 もう用事を果たしたからなのかよく分かんないけど、こうじさんは女の子の差し伸べた手も無視してその場を去っていった。


「……こうじさん、待っ、」

 わたしは反射的にこうじさんを追おうと、した。

「待って!」
「わ、」


 追おうとすると、女の子に腕をつかまえられた。女の子は、ニコニコしながらわたしに言った。


「あたしたちと一緒に、行きましょう!」


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