重なる月に消える食
トレイルモンレースの賞品は、泉ちゃんの求めていたようなものではなく、ハンバーガーデジモンの村へご招待……という物だった。[1/4] バーガモンを救え! 友樹のピュアな心 乗っていたトレイルモンのなかで、皆どんな所なのか、ハンバーガーを振る舞ってくれるのか、と期待してた。おいしいものだといいなあ。 トレイルモンから下車して、街を歩く。そこには、西部劇のような木造の建物がたくさんあった。街は砂風が吹いていて埃っぽい。 でも、建物が多くある割には、外を出歩くデジモンが不自然なくらいいなかった。少し歩いていると、ある店の目の前のテーブルに伏せて、デジモンさんが泣いているのが見えた。 「何があったんですか!?」 「恐ろしく巨大なデジモンが三つの満月が重なる晩は腹が減る、っていうんです。それでうちの店のハンバーガーを食べるために主人を連れ去ったんです!!」 バーガモンさんは、泣き顔で語る。……そんな身勝手なデジモンがいるのか。そのデジモンの食生活ってステレオタイプのアメリカ人みたいだなあ。偏見かな。 「図々しいやつだ、俺たちだって腹が減ってるのに!」 「でもそのデジモン、途中で病気になって死にそうじゃない?」 「あんさんら、そういう問題じゃないまき」 「というか想こえーよ」 ボコモン、拓也くんがが冷静にツッコミを入れた。 デジモンさんの子供も、父親がいないということで泣いている。子供はとりからボールモンで、六つ子。……ものすごい安直な名前だなあ。 バーガモンさんはご主人が連れ去られた場所は全く分からないらしい。加えて、今日再び三つの月が重なるまでに更においしいハンバーガーをこしらえないとご主人を返さない、ハンバーガーは、カメレモンが引き取りに来るということになっている……と。 「作れるはずないようー!! 父ちゃんは村一番のハンバーガー名人なんだもん!!」 「……だったら、あたしたちで作らない?」 泉ちゃんは、わたしたちの方に振り返って提案した。そりゃ、実際バーガモンのご主人より優れたものが作れるならいいけど……。泉ちゃんが前向きなのに対して、わたしはあまり自信がない。 「おいしいハンバーガーを作って、カメレモンたちの跡を付けるのよ」 「料理なんて、したことないぞ」 「オレも、全然ない」 「ボクも」 ……初っ端からものすごく詰んでるような気がするよ、泉ちゃん! わたしは一応できることにはできるけど、正直日頃から作ってるわけじゃないから上手にはできない。 「でも、おいしいハンバーガー作ったら、この子たちのお父さん返してくれるんだよね?」 友樹くんが言った。……家族がいない、っていうのはやっぱり寂しいことだ。いいものが出来る自信なんてないけど、家族はちゃんと元通りになってほしい。 ともかく、わたしたちはハンバーガーをつくることになった。ボコモンとネーモンは味見係に徹するそうだった。一番ラクだな。 * バーガモンさんが用意してくれただけあって、キッチンにはたくさんの食材があった。デジタルワールドに来てから、こんなにたくさんの食材を見たのは初めてだった。 何を作ったらおいしいのか、色々考えてみる。自分の好きな食べ物を使いたいなあ、って思ったけど、まずそれがバンズに合うのか? ってところを考えると使えなくなるものもあるし……って、輝二くん。 「さすがにそれはないんじゃないかな!」 「いや、安心しろ想。これは全部俺の好物だから、きっとうまいはずだ」 明らかにバンズに合わない組み合わせを選んでる人が、めっちゃ身近にいたよ! 輝二くんが運ぶ皿の上に乗っかっているのは、イカとか貝とかの海の幸。絶対食べたくない! 輝二くんは何故か得意げの表情。最初の頃の輝二くんなら、そもそもこういうのに参加してなさそうなのに……! なんとなく楽しげな輝二くんを見ると、何故かわたしまで嬉しくなる、けど、今回はなんか違うと思うんだ……。 「……」 まな板で食材を刻んでいく。 料理は得意って、わけではないけど、お母さんの料理を作る姿を見ていたら自然と覚えたのだった。どうしても料理なんて日常的な動作をしてると、家族を、現実世界を思い出してしまう。望ちゃんは、今ごろどうしているだろうか。 ――初めて会ったとき、望ちゃんはファーストフードとお菓子の袋を抱えていた。 NOVEL TOP ×
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