追走列車でゆく
[2/2] 「さあ! これよりトレイルモンレースの開始だ!」 うあ、実況も妙にノリノリだ……! 帰りたい! カウントダウンが終わると同時に、どのトレイルモンも猛スピードで駆けだす。 わたしはといえば、トレイルモンの車内で腰掛けて、窓から外を様子を見ていた。うん、まるっきり勝負する気はないよわたし。 あ、あと開始早々、ネーモンのトレイルモンはリタイアしてた。 「わ、追い抜かした。純平さん、元気出して……!」 途中、障害物のデジモンに襲われて停車してしまう純平さんのトレイルモン、ラクーンドッグとすれ違った。純平さんが気の毒で、思わず同情してしまった。 ぐんぐん坂道のぼって、今度は、レインボーブリッジという細い橋にたどり着く。そこは、線路が二つしかない。つまり、これ以上先に進みたいならそれなりの危険が伴う、ということだ。 先にはワーム、バッファローがいた。バッファローに乗ってるドッグモンが、こっちに向かって爆弾を投げつけるーーえっ。 「い、いやーっ」 「……だめだ、突き抜けろ!」 車内が激しく揺れ、道が崩れていく。だ、だから参加したくなかったのに……! なんとか突き抜けて、橋を渡りきったけれどももうわたしはへろへろだった。上手に橋を渡れなかった泉ちゃんとモールが、棄権したという実況が聞こえる。こ、こわいよー。 進んでいくうちに、山になった。少しでもずれたら、谷底に落ちてしまいそうな路線。その先頭を走っているのは、ワーム。その後ろをすぐバッファローが走行している。 「うわあああっ」 「拓也ー!!」 「たっ、拓也くん!」 ワームをバッファローが押す。その衝撃で、落ちていく、拓也くん。……ひどい。思わず目をつぶってしまった、でも拓也くんの悲鳴は止まる。チャックモンが拓也くんの手を掴んだからだった。 それからすぐに拓也くんはアグニモンになって、跳んでワームの上に戻った。よ、よかった! アグニモンとワーガルルモンは戦いはじめる。え。トレイルモン自体に細工したほうがはやいんじゃないかな……。ワーガルルモンにおされて、トレイルモンのワームが傷つき動きが鈍くなる。 「想! トレイルモンを頼む!」 「は!?」 「え、どこにいくんだあ!?」 何を血迷ったか輝二くんは、戦っている二人のほうへ跳んで、進化した。いや、そっちはわたしたちの線路じゃないからわざわざ行く必要ないんじゃ! 確かにアグニモン危なげだけど! 「リヒト・ズィガー!」 「カイザーネイル!」 お互いがトレイルモン上で技を繰り広げる、けど効果はなく。アグニモンは「余計なことをするな!」と言ってワーガルルモンに技をぶつける。うん、アグニモン強いから平気でしょ! わたしはそんなことより、安全な方法で早くゴールに辿りつけるかのほうが気になるからみんなにも戦ってほしくはなかった。 「うわあ、何をするんだ、やめてくれ!!」 「ぶ、ブレーキを!?」 気付けば、戦禍から逃れていたドッグモンが、フランケンのブレーキを噛み外していた。このまま行って、何かに衝突したときのことを思うと真剣に鳥肌が立つ。 ヴォルフモンが駆けつけたときにはドッグモンはワーガルルモンの方に逃げてしまった。ヴォルフモンはなんとか止めようとするけど、これじゃあ力が足りない。このままじゃ危ないと思いながら線路の先を見ていると、そこは下り坂だった。カーブもあって、このままじゃとても曲がりきれない。……。 「し、進化したくないけどしないと相当危ないよねこれ!?」 最悪すぎる! わたしは若干涙目になりながらデジヴァイスを手にかざした。沢山のデジコードに包まれて、シキモンになる。冷静に考えると、わたしにとって久々の進化だった。 シキモンになると瞬時に身体が軽くなって、弱いわたしでも力が出る。だからフランケンの動きを止めるのは、とても簡単なことなはずだった。はず、だった。 「うわああああっ」 シキモンが止めに行ったのとほぼ同じタイミングで、フランケンはヴォルフモンもろとも崖へ落ちそうになった。 「ツラララー!」 助けてくれたのはチャックモンだった。チャックモンは間一髪のところでフランケンを捕らえる。 でも、ヴォルフモンは落下しつつある。シキモンのわたしは、腰に付いているクナイをヴォルフモンのマフラー目がけて投げた。それがマフラーを貫き岸壁に刺さり、ヴォルフモンが落ちることはなくなった。 それからヴォルフモンは、ガルムモンになって体勢を立て直す。 「お、落ちるー!!」 チャックモンだけでは、止めるのに限界があるのはしかたないことだった。チャックモン、トレイルモンのフランケンとアングラーが、耐え切れずにこっちに向かって落ちてくる。 「せいっ」 シキモンがアングラーの方を捕まえて、ガルムモンがフランケンの方を受け止めて、いちばん最後にチャックモンを助けた。地面に降り立ったころには疲れはててしまって、わたしたちの進化はみんな解けてしまった。 「大丈夫かあ?」 「ああ……」 いや、全然大丈夫じゃないよとか言いたかったけどさすがに空気よめないと思われたら嫌だから黙っとく。 「人間だってバカして、悪かったな」 フランケンが輝二くんに言う。やっぱり偏見とか、差別とかされるんだね。なんだか悲しかった。 ともかく、これで、わたしたちは脱落ということになったらしい。や、やっと終わった。出たくなかったのに進化までしちゃったから、余計に疲れたような気がする。 それから、スタート地点に戻り、レースを観戦した。勝ったのは、ワームだった。 「拓也くん、すごい!」 これで、賞品のハンバーガーゲット! ……かと、思ったんだけど。実際はハンバーガーデジモンの村へご招待、ということだったのを、実況のデジモンさんが教えてくれた。でも、行った先の村でハンバーガーは食べれそうだよね。 泉ちゃんのお腹がぐう、と鳴った。それをみんなで笑う。 「何よ、育ち盛りの女の子なんだからお腹だってすくわよっ!」 泉ちゃんが照れながら言う。――みんなと過ごすのが楽しくて、レースに出る前に考えていたことなんてどこかに飛んじゃえばいいのにな、と思った。 120614 この回の拓也はかっこいいですね…キャラソン流れてるあたり。 夢的には書きづらいので色々端折りました。 NOVEL TOP ×
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