壊れかけた星で
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スキャンさせるな! 友情の豆の木
「ボコモン、輝二くん……っ。皆、ありがとう!」

 想が手を振り、走り去っていった。俺も微笑して想を見送った。

「想ちゃんって、いい子だな」

 走っていく想の背中を見ながら、輝一がぼんやり呟いた。
 想は素直に感情を表すが、あまり怒ることはなかった。あるとしても怒るよりも、泣くか呆れるかのどちらかだった。

「……いいやつだから、だから俺もアイツが好きなんだ」

 俺も、既に行ってしまった想を見送り、呟いた。
 一体どういう感情で好きなのか、は自分でもはっきりと判別が付いていない。
 純平が泉に向ける気持ちのように想が好きなのか、友情の延長で想を好きなのか。それは分からないが、ただ一つ確実なのは俺は想を大切な存在だと認識していることだ。一緒にいたい、と思っていた。
 ――だから、想がロイヤルナイツに連れ去られるなんて思ってもみなかった。


「想っ!」

「美しきこの私に囚えられることを、名誉に思うがいい」
「や、やだ……っ」


 想は、勝春たちと共にネットに捕らえられ捕まってしまった。それを助けようとした友樹も連れて行かれた。
 俺は想を呼び走った。だが、距離は縮まることなく、ロイヤルナイツは空の彼方へ行ってしまった。

 守らせてくれ、と言ったのはケルビモンを倒したあとのことだ。それにも拘らず、俺は何も出来なかったのか――ッ!
 自分の無力さに苛立ち、その後トレイルモンに乗ることになっても俺は落ち着くことが出来なかった。
 ――もしかすると、想が高ぶり怒ったのは、ロイヤルナイツを倒せずに、デジモンとデジタルワールドが傷ついてくばかりの現状にストレスを感じているからなのか。

 それは、つまり、――俺に力がないから、か?


*

「……ッ!」
「友樹くん、しっかり……!」
「大丈夫だ、手を離すな、友樹ッ」

 ネットの中は、身動きが取りづらい。仮にわたしがここで進化できたとしても、その衝撃でネットに捕まっている友樹くんが振り落とされてしまう。――耐えるしか、ないんだ。
 デュナスモンとロードナイトモンが向かう先には、巨大な植物があった。ジャックと、豆の木みたいな。


「あれは、何!?」


 よく分からないけれど、わたしたちはそこに運ばれているみたいだった。
 しばらくするとその木の根本まで到着し、そしてわたしたちはやっとネットから解放される。乱暴にネットが解かれて、わたしたちは大地に叩き付けられた。


「ッ、いたい」

 ぐわん、と頭に衝撃があった。何だか、わたしはしょっちゅう怪我してばかりいる。

「! やっぱりここは……」
「豆の木村だ……」


 勝春くんたちはここを知っているようだった。
 わたしは立ち上がって、辺りを見渡す。すると、そこには小さなデジモンさんが倒れていた。彼らはマメモンさん、というデジモンらしい。皆、ぼろぼろに傷ついていた。


「お前らだな、マメモンをこんな目に遭わせたのは!」
「ふん、素直にキーの在り処を言わないからだ」
「えっ、キーって……?」
「ふん、お前たち人間なら知っているはずだ」

 キーって、鍵、のことだよね。……そんなこと突然聞かれても分かるはずがない。

「分かんない、何も知らないよ」

 だからわたしは、素直にそう答えた。
 それと、もう一つ今度はわたしから質問しようと思った。やっぱり、わたしはあのことが気になっていたのだ。


「デュークモンさんは、どこにいるの」
「……。何故お前はデュークモンに拘る。何処でその名を知った?」

 デュナスモンはわたしを睨む。
 彼は答えようとしない。質問には質問で返しちゃいけない、なんて小学生のわたしでも知ってるのに。

「わたし、一度だけデュークモンさんに逢ったことがあるの。……おんなじロイヤルナイツ、なら居場所知ってるでしょう」
「知らないな。確かに奴はかつては同胞だったが――、それはもう昔の話」
「美しき正義の前に、今の奴は邪魔な存在でしかない……」


 かつては、今の奴は。
 それはつまり、昔はデュークモンさんも同じようにこの二人とともに戦っていた、ということだ。それならば、どうして今のデュークモンさんはどういう立場にあるのか。


「あの人は何なの、どうしてあなたたちはルーチェモンなんかに手を貸すの。教えてよッ!」


 わたしは叫んだ。勝春くんたちが、ぽかんとした表情でわたしを見ていた。
 デュナスモンも、ロードナイトモンも沈黙したままだった。聞いてはいけないことなのか。それでも、何も知らないままなのは嫌だ。

「……そんな下らないことを訊く前に、頭を冷やすんだな!」
「きゃっ」
「わあああっ」


 デュナスモンは、再びわたしたちをネットで捕らえると、豆の木の根っこの地下牢に閉じ込めた。
 どうしてなの。昔、デュークモンさんに何があったの。聞きたかったけれど、ロイヤルナイツの二人はキーとやらを探しに行ってしまった。

「待ってよ……!」

 そう叫んだわたしの声も、届かなかった。

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