勇気は氷より強く
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選ばれし者!? エンジェモンを操る少年
 そしてわたしたちが最初にやって来たのは、鋼のエリアだった。トレイルモンにお礼を言って、わたしたちは金属でぴかぴか光る場所を歩いた。

 今まで、わたしは色々なデジモンさんたちと出逢ってきた。きっとその中には、故郷が消えてしまったデジモンさんもいるだろう。無事かどうか、今すぐにでも確認したかった。
 けれど、今のわたしたちにすべき事は残り少ない大地を確実に守ることだ。だから、鋼のエリアにいる。前に、進まなくちゃいけない。悲しんでいるばかりじゃ、ダメなんだ――。

 坂を降りて歩いているとき、遠くの方から土煙と笑い声が聞こえてきた。そしてそれはやがて近づいていき、わたしたちの目の前で止まる。土煙から現れたのは、サジタリモンというデジモンさんだった。

「我が名はサジタリモンという。お前たちに個人的な恨みはないが、身ぐるみ剥がさしてもらうぞ!」
「キグルミ?」
「違う、身ぐるみ、だ! 分かりやすく言うと、持ってるもん全部置いてけ、っていうんだ!」
「分かりやすく教えてくれるなんて、親切だなあ」
「想さん、感心してる場合じゃ……。あの、もしかして強盗さんですか?」

 友樹くんは、サジタリモンさんに訊ねた。
 うん、何か強盗というわりには強くなさそうだし、もし襲われても進化したらいいだけの話だし。だからあんまり怖いとか、思わなかった。
 わたしはのほほんとしていたけれど、サジタリモンさんはそんな事には気付かず痛い目に遭いたくなかったら――とかなんとか言っている。


「おいあんた! ロイヤルナイツの手下か?」
「ろいやる……? 言ってんだ、お前」
「……そうか、ならいいんだ」


 ああ、あのデュナスモンとロードナイトモンが無関係なら全然安心して大丈夫だ。
 わたしたちは一応、サジタリモンさんに聞こえないように円になってこそこそ話し合う。とりあえず適当にやっつける、ということになった。


「……悪いが渡せないな」
「なんだと!?」
「こっちは急いでんだよ! ケガする前にとっとと帰んな!」
「ならば、力づくで奪うまでだ!」

 サジタリモンさんはそう言うと、手を構えた。輝二くんか拓也くんのどちらか一人が進化すればいいなあ、なんて考えていたら、――誰かの声が聞こえた。

「そこまでだ!」

 わたしたちは一斉に声のする方を見た。
 その瞬間、わたしは叫びそうになっていた。嘘でしょ、と思った。
 見上げた崖の上にいたのは、人間の男の子と女の子の四人組だった。わたしたちや望ちゃん以外に子どもがいたなんて、信じられなかった。


「ぁ……」

 友樹くんが声を漏らした。わたしは友樹くんを見た。何だか、不安がっているように見えた。


「お前か、この辺りを荒らしていた盗賊デジモンってのは」
「だったらどーだと言うんだ」
「今すぐやめろ!」
「バカめ! 人間の子供が、何言おうが、このサジタリモン様に敵うわけなかろう」
「ふん、お前の相手はオレたちじゃねえよ」


 いちばん背の高い男の子がそう言うと、彼らの背後から翼の生えたデジモンさんが飛び出してきた。トレイルモンレースのときに解説をしていた人と色違いのデジモンさんだった。


「エンジェモンじゃ」
「かっこいいです?」


 パタモンはきらきら目を輝かせながら、エンジェモンさんを見た。もしかしたら、パタモンも進化したらああいう風になるのかもしれない。
 サジタリモンさんが弓を放とうとした。エンジェモンさんは、それをかわし、あっという間にサジタリモンさんを抑えつける。


「……まだ続けるか」
「っ、お、覚えてろー!!」


 あ、そういえばわたしがかなり前にキノコのデジモンに襲われたときも、去り際に覚えてろー! とか言ってたなあ。そういうセリフ言わなくちゃだめなルールとかあるのかな。


「おーい、お前たち……、って、お前!」


 背の高い男の子がわたしたちに呼びかけ、そして坂を下ってわたしたちに近づいてきた。


「友樹じゃないか! よく無事だったなあ」


 どうやら、彼らは二人とも友樹くんの知り合いの子らしかった。
 知っている子に会えて嬉しいのかと思ったけれど、友樹くんは気まずそうに目を伏せただけだった。


 鋼のエリアの建物の中に入った。そして、わたしたちは向かい合ってこれまでのことを話す。
 彼らは皆と同じようにメールを受信して、トレイルモンに乗ってこの世界にやって来たみたいだった。勝春くんと鉄平くんは同じトレイルモンに。照男くんと千晶ちゃんとは、森のターミナルで出逢ったらしい。


「現実世界へ帰れ、って言われてたんだけど……僕達帰りの電車に乗らなかったんだ」

 他の子どもたちは、次々と帰りのトレイルモンに乗って帰っていった。けれど、彼らはこの世界にいることを選んだ。望んでこの世界に来たわけじゃないわたしとは、全く違う。


「そうやってオレたちは、旅を続けてるんだ」
「危ない目にも遭ったけど、オレたちにはエンジェモンがついてるしな!」
「……友樹、あの時は、悪かったな」


 勝春くんが友樹くんに謝る。友樹くんは、勝春くんたちと出会ってからずっと俯いたままだった。友樹くんは、何も答えなかった。


「それじゃあ、お前たちはオファニモンからの指示を無視したってことか?」
「……おふぁにもん? ああ、あのメールのこと?」
「ちょっと前までは、たまに連絡があったけど……最近では、全然ないわね」


 そう言って千晶ちゃんがポケットから取り出したのは、デジヴァイスではなくて普通の携帯だった。話を聞いていると、どうやらデジヴァイスがどういったものなのかも知らないみたいだった。
 わたしたちは、困惑して顔を見合わせる。――根本的に、違うみたい。


「……それより、アンタたちこそこんな所で何してんだよ?」
「そりゃあ、この世界の平和を取り戻すために……、」

 純平さんが困ったように答える。

「世界平和ァ?」
「おいおいまじかよ」
「君たちがこの世界のために、何が出来るって言うんだい?」


 ――なんだか感じの悪い物言いをする子たちだ。
 おまけに、ボコモン、ネーモン、パタモンに向かって「そのデジモンたちは戦えそうに見えないけど?」とか言ってくすっと笑う。ああ、だめだ、すっごくいらいらする。


「デジモンの助けなしじゃ、せいぜいボランティアかゴミ拾いがいいとこなんじゃないの? ハハハハッ」
「っ、こ、こっちの事情だって知らないくせに、どうしてそんなこと言えるの? 自分勝手だよ!」

 四人の笑い声に、ついにわたしは耐え切れなくなって口を開いてしまった。笑い声が止まってしん、と静まり返る。
 拓也くんはわたしの顔を見て何か言いたそうに口を開きかけたけれど、勝春くんたちの方に向き直る。

「あのなー。……オレたちは伝説の」

 拓也くんがわたしに続いて、彼らに諭そうとしたとき、輝二くんがそれを止めさせた。
 輝二くんは首を振って、何も言うな、と合図する。何も知らされていない。だから、スピリットのことも黙っておけ、と。――それでもわたしは腑に落ちないから、勝春くんたちをじっと睨んだ。むかつく。


「おい、お前たち、現実世界へ帰れ! ここにいてもロクなことはない。余計なことに巻き込まれる前に、現実世界へ帰れ、って言ってるんだ」

 輝一くんは四人に向かって、諌めるように説得した。
 勝春くんたちは納得いかないようで、どういう意味だと聞き返してきた。


「お前たちも見たことがあるだろう、失われた大地を」
「あれは、ロイヤルナイツって悪いデジモンの仕業なの」
「あいつらは、この世界を滅ぼそうとしている。だから今すぐ……」

 拓也くんがそこまで言ったとき、鉄平くんが立ち上がった。

「そんなこと、指図される筋合いないだろ!」
「オレたちにはエンジェモンがいる! 帰ったほうがいいのは、そっちなんじゃないのか!?」
「エンジェモン、って……守られてるばっかりじゃない!」


 わたしは、彼らに叫ぶ。
 エンジェモンさんに頼ってばかりで、守られているだけ。――そのことがどうしてか、とても苛立った。


「……っ、何だよ、さっきから! ここに留まるのはお前たちの勝手だ。だが、指図だけはするな!」


 そして彼らは、建物の外へ行ってしまった。わたしはその去っていく背中を、じっと睨んでいた。

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