公爵曰く:
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 それからその後、風邪薬を買いにモノクロモンさんのお店へ向かった。わたしは当然この世界のお金なんて持ってるはずもないから、デュークモンさんに買ってもらってしまったのだった。
 それはともかくとして。デュークモンさんはわたしを肩に乗せて歩いていた。
 確かに今わたしが歩いてもへんなトボトボ歩きしか出来ないから、こっちのほうが早く移動できることは間違いないんだけどさあ。


「デュークモンさんおっきいからこれコワいです!」
「君は世と色のスピリットの祖たる闘士が同じであることは知っているだろう」


 は、話聞いてない!


「ちょ、ちょっとしか分かんないです」


 唐突だったけど、わたしは返答をした。
 闘士のことはセラフィモン様の城で、断片的には聞いた。色は闇と光の中間で、とかなんとか。


「古代の世の闘士は特殊なのだ。このデジタルワールドが誕生した時には既に存在していたと言われる――その名は、アメノミモン」
「あめのみ……」


 あめのみ。それは、昔聞いたことがある。古事記にアメノミナカヌシという神様がいる。アメノミモン、はきっとその神様と同じだ。天と地が別れて、世界が産まれたときに現れた神。
 アメノミナカヌシは宇宙そのものだ、って言われているから、だからアメノミモンも“世”の闘士だったりするんだろう。宇宙、なら世じゃなくて天のスピリットのほーがふさわしいような気がするけど。


「先刻目撃した世の闘士のスピリットは、ヤタガラモンの物唯一つのみだ」


 再び、語るデュークモンさん。
 世のヤタガラモンはヒューマンとビースト、二つの力が合わさっている闘士なんだという。
 て、いうか。それよりなんでヤタガラモンはあんなゆったり空を舞っていたのか、という疑問なんだけども。


「想、君はそのスピリットを大切に護り抜きなさい。アメノミモンの力を受け継いでいるのだから」
「……は、はあ」


 アメノミモン、というのがそもそも漠然としてよく分からないから、いまいちピンとはこなかった。それにしても、こんな大事なスピリットをわたしなんかが受け継いじゃっていいのか。どっちかって言えば、そっちの方が気になる。う、うーん……。


「……時に、想。先で闘士たちが争っているのが見えるが」
「えっ」


 言われて、デュークモンさんの指す方向を見る。――あそこで暴れてるのは、ペタルドラモン!
 デュークモンさんは、わたしを肩に乗せたまま騒ぎのある方へ近づいた。輝二くんと拓也くん、友樹くんとボコモンネーモン、見知らぬ機械デジモンさんがいた。
 輝二くんが、わたしたちに気づいて声をかける。


「想! ……そのデジモンは?」
「あ、えっと」
「エキストラだ」
「そんな目立つエキストラいねーよ!!」


 デュークモンさんはきりっとした顔で答えた。拓也くんいいツッコミするなあ。
 輝二くんと拓也くんは、ペタルドラモンに応戦しようとしたものの、デジヴァイスがないから押されっぱなしだった。


「グオオォォ……!」
「うわあッ!」


 ペタルドラモンが、二人に襲いかかろうとしていた。


「ど、どうしよう……!」


 わたしはまだ戦えるかどうか自信がない。横のデュークモンさんは、その光景をただ見ていただけだった。そのとき、だった。


「スピリット・エボリューション!」


 友樹くんだった。友樹くんは進化して、白い猿かゴリラのようなデジモン――ブリザーモンになった。


「氷のビーストの闘士……」


 デュークモンさんが呟く。
 ブリザーモンは、一度ペタルドラモンを殴り飛ばしたかと思うと、神に祈りを捧げるように膝まづいて手を合わせる。ペタルドラモンはまだやられたわけではなかったから、その隙を見てブリザーモンに襲いかかる。


「何の……ッ! アヴァランチステップ!」


 ブリザーモンが手にしていた二つの斧を振り回す。……で、ブリザーモンは相手を斬りつけて妙にはしゃいでる。コワッ。


「友樹って、あんな性格だったのか……?」
「友樹くんが非行に……!?」
「格好をつけたい年頃だからだろう」
「お調子者だな、ありゃ……」
「まだビーストスピリットが制御できとらんのじゃ」


 人って変わるんだね。ペタルドラモンは、ブリザーモンに負けじと体勢を立て直し、必殺技をかまし、ブリザーモンは大きな木の枝に包まれる。


「あの子を助けてやってくれ!!」


 すると、機械のデジモンさんは輝二くんと拓也くんに、デジヴァイスを放って投げた。え、持ってたのならもっと早く渡してあげてほしかった……!
 それを受け取った二人は、アグニモン、ヴォルフモンになる。あ、デュークモンさんは闘士になった二人の姿を見て感心してました。


「バーニング・サラマンダー!」
「ツヴァイ・ズィーガー!」


 その必殺技で木の枝を破壊し、ブリザーモンはペタルドラモンに跳びかかる。


「グレッチャートルペイド!」


 ペタルドラモンは飛んでいく。そして、再びブリザーモンは、祈りを捧げたのだった。――よ、よかったあ。
 ブリザーモンが変身を解き、友樹くんに戻る。これでデジヴァイスも手に入ったし、安心だ。
 わたしはデュークモンさんに肩から降ろしてもらって、デュークモンさんを皆に紹介しようとした。


「あのね。このデジモンさん、」
「想」


 ……紹介しようとしたら遮られた。


「君が色のスピリットを統一するのだよ。善と悪が、一つになるように。……デュークモンはこれで失礼する」
「えっ、唐突すぎる!」

 デュークモンさんは跳んで、ついには見えなくなってしまった。結局何だったんだと皆が言う。……わたしもそう思ってるよ。
 分かったのは、アメノミモンというデジモンの存在だけで、デュークモンさんについては全く謎だった。
 その後にオファニモンさんからの連絡が来た。オファニモンさんはここで戻るのは貴方達の自由だ――と言っていた。けれど、今更戻る気持ちにはなれるわけがなかった。


「薔薇の明星を目指すのです」


 オファニモンさんの声は、それきり聞こえなくなった。――最後のデュークモンさんの言葉に不安を抱えながら、わたしはトレイルモン内へ向かった。



----120514

ヤタガラモンはアクセル版の金色亜種のイメージです。うへ


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