おわりのはじまり
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 パソコンのメールに気づいたのは、すぐだった。


「なあに、これ」


 "スタートしますか、しませんか。"


 メールの本文にはそういう、謎の質問があった。いきなりそんなメールがきたものだから、わたしは思わずスパムメールかと思った。差出人は、不明。その文章のしたには、YESとNOの選択肢。ふしぎだ。
 こういう詐欺とかって、あったけ――、だめだ、何も思い浮かばずない。
 仮にここでYESを押して変なサイトにつながって架空請求がきたり、NOを押してPCにウィルスがばらまかれたりしても困る。一応これでも慎重派なんだ、わたしは。


「怖いから消そ」


 わたしはマウスを操作して、削除ボタンを押した。
 そして、"ごみ箱"にいったメールを削除しようとしたときだった。


 ──新着メール、1件


 今度は携帯から。親かと思ってそれを見たけど、その予想は大外れだった。


 比沢想さん。
 これはあなたの運命を決めるゲームです。
 あなたのこの選択により、あなたの世界は大きく変わるでしょう。
 スタートしますか、しませんか。

 携帯が、しゃべった。――何で、携帯が喋るのわたしの名前知ってるの、個人情報でしょ、これ、どこから情報漏れてるの。ありえないよ。
 運命とか、世界とか。占いではポピュラーな言葉をメールを開いたとたんに語り出すわたしの携帯。
 PC、携帯にも同じ内容のメールがきた。何か、不思議なものが裏に潜んでいるんじゃないか──。ふつうの人なら、そう勘ぐってしまう。
 でも、わたしは──。


「やっぱり、怪しい」


 携帯のメールを削除した。
 わたしは何事にも臆病だった、三年前のあの時から。





*


「あ。あれ?」


 いつの間にやら、わたしは見たこともない場所にいた。森のような場所で、木々の隙間から洩れる光がかすかに眩しい。


「渋谷、駅……」


 そう、わたしはさっきまで渋谷駅にいたはずなんだ。切符も確かに買った。でも、どうしてかそのあとの記憶が何もない。
 少し前を思い出してみる。あの変なメールを受信したあとに、わたしはお母さんのお使いで東横線に乗って渋谷のいとこに会いに行って、今はその帰りの電車に乗ろうとして――そうだ。
 エレベーターは乗ろうとしたら閉まって、階段でしたまで降りたんだ。ああ、でもそのあとがやっぱり思い出せない。思い出そうとすると、頭が痛む。
 おまけに何だかお腹まですいてきた。家に出たときは夕方だったからだね、きっと。
 何かないかなあと思いポケットの中をさぐったけれど、ハッカの飴が入ってただけだった。うう、お腹すいてるときにこんなの食べてもなー。
 とりあえず歩くことにした。まずは、このおかしな状況をどうにかしなければならないんだから。
 とぼとぼと歩いていると、目の前を横切る、明らかに地球には存在し得ない生物が通り過ぎた。


「……え?」


 まるで、それはテレビアニメとか、RPGにでも出てきそうな、モンスターだった。少し、怖い。
 いや、きっとあれはロボットとか、おもちゃなんだ。そう言い聞かせながら、また歩いていると、今度は小さな町のようなものが見えてきた。そこに足を向かわせる。―─まともな人はいるよね。
 わたしは町を見つけられたことに安堵して、病弱なのも忘れ一気にそこまで走っていった。

 でも。
 着いた町には、また信じられない光景が広がっていた。信じられない。町も、見たことのないモンスターのようなモノがたくさん歩いていた。でも、人間の言葉は喋れるみたいで、意思の疎通はなんとか叶うらしかった。とりあえず、近くにいたカエルのようなモンスターに話しかけてみる。


「す、すいません、」
「ゲコ?」
「ここって、どこですか? 渋谷って分かりますか? というか日本?」
「渋谷? 日本? どこだゲコ?」


 その後も、不思議なモンスターさんたちに返ってきた答えは、どれも同じようなモノだった。皆、東京どころか日本を知らない。どういう、ことなの。
 もしかして、今わたしは夢を見ているのか。――だって、そうじゃなきゃ絶対ありえないんだから。
 本が好きなわたしだけれど、いや本を読むからこそかもしれないけれど、ちゃんと現実と物語の違いは分かる。現実に、あんな生き物が存在するわけがない。
 だからこれも、夢。きっと冷めるに決まってる。電車の中でまたうたた寝なんかしちゃってるんだ。そういえば、夢の中で夢って自覚できる夢って、明晰夢っていうんだっけ。

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