雷鳴に向かって
「オレ様が、おめえらのスピリットぜぇんぶ奪ってやる!」[3/5] ゴーレモンの一体にグロットモンが乗る。グロットモンが叫ぶと、それを合図にゴーレモンたちがおそいかかってきた。 「サラマンダーブレイク!」 「リヒト・ズィーガー!」 その攻撃で何体かは消えた。でも、いくらやってもキリがないくらいゴーレモンはいた。数が多すぎる。 いくらアグニモンとヴォルフモンが戦っても、これじゃあダメだよ。 ゴーレモンたちは、わたしたちの方に近づいてくる。――純平さんが、前に立ちはだかる。 「純平はん! その傷では無理じゃ!」 「……わたしが、戦う」 わたしはデジヴァイスを握りしめた。こんなに傷ついた純平さんを戦わせるわけにはいかない。でも、純平さんは。 「想ちゃんはダメだ! あいつ、想ちゃんのスピリットを狙ってるし、あと想ちゃん、具合良くないんだろ?」 「そ、そんなこと、 「目ェ覚ましてすぐのとき、立ちくらみしてたじゃんか! それに、女の子に守られるなんて、カッコわるいだろ!」 ……さっきのあれ、見られてたんだ。石碑に行ったときあたりから、ふとした瞬間に目まいがしてた。 この世界に来てから、一ヶ月以上すぎたけど、今になって身体の限界が近づいてきてる、のかな。でもそんなこと、自分じゃ分からない。 「純平、想!」 「今行く……うわあっ」 いきなり現れたアルボルモンが、自分の伸びる手を使ってアグニモンとヴォルフモンを捕まえてしまった。 「火遊びをしたら 必ず水で消せ」 アルボルモンは何故かことわざを言った。 アグニモン、ヴォルフモンは、首に巻きついた手をどけようともがいてる――けど、力が強すぎて、それは取れない。 アグニモンとヴォルフモンは戦えない、純平さんと友樹くんはボロボロ、泉ちゃんはスピリットを持っていない――追い詰められている。 なんとかしなくちゃ。 もう逃げないと誓った。まぶたを閉じると、あの闇の世界がよみがえる。 でも。泉ちゃんの手が温かくて、安心した。あれがなかったら、わたしは目を覚まさなかったかもしれない。 本当は戦いたくなんかない。泣きたいくらいコワい。でも、やっぱりここで皆がボロボロになっていくのを指くわえて見てるだけなんて、いやだった。 「純平さん、ごめん。……スピリット・エボリューション!」 「シキモン!」 シキモンになると、いきなり身体が軽くなる。 前回進化したときは分からなかったけど、改めて自分の身体を見ると、なんか犬みたいなグローブを手にはめてて、服は忍者が着るような和装だった。ああ、そういえば必殺技も日本語だった。 「色即是空!」 そうそう、こんな。――あれ、わたしいつの間にかゴーレモンに攻撃してる。しかもゴーレモンの数匹、それでやっつけられてる……! 「私は強いでござるよ! 純平よ、下がっておれ」 「……隠れるワケ、行くかよ!」 「今出たらかえって足手まといになっちゃうよ! ここは、三人に任せて!」 でも、そのうちの二人はアルボルモンに捕まってるから、何もできない。わたしが二人を助けに行けなきゃ! 泉ちゃんはデジヴァイスを見つめる。そしてあたしが進化できたら――と、呟いた。純平さんはそれを見て、わずかに顔をゆがませた。 「踊れ 踊れ」 「ウワアアァッ」 アルボルモンは、腕を離したかと思うと、今度はそれをしっちゃかめっちゃかに二人にぶつけてもてあそんでいる。それを何度か繰り返しているうちに、二人にはデジコードが浮かび上がってしまった。 「させぬ!!」 わたしは地面を蹴り上げて、跳んだ。そして、アルボルモンの近くまでやって来て、真っ黒のクナイを投げつけた。 それは見事にアルボルモンに当たって、アルボルモンはしかたなく攻撃の標的をわたしに切り替える。なんとかしないと。 * ゴーレモンたちに囲まれ、絶体絶命のなか――純平は、ゆっくりゴーレモンたちの元へ歩みはじめた。 シキモンがアルボルモンに立ち向かっているとはいえ、シキモンの元は、比沢想という大人しい女の子。彼女だけに戦わせるわけにはいかない。 「友樹、泉ちゃんを守るんだぞ」 「そ、そんな!!」 「ムチャなのは分かってる、だけどここで見ていられるか!!」 今、オレが泉ちゃんを――仲間を救う。そして想と共に戦ってみせる。 シキモンは――想は、純平を見つめた。そして、純平さん、いい人すぎるよ、と思った。 「な、ならボクだって!!」 友樹と純平は互いに頷き、デジヴァイスを構えた。 「スピリットエボリューション!」 「チャックモン!」 「ブリッツモン!」 ブリッツモンはチャックモンに泉を守るように指示すると、拳を高く上げ、その拳を地面に落とした。ミョルニルサンダーだった。雷鳴と共にゴーレモンは消滅する。 「カチカチコッチン!」 チャックモンも負けじと氷を吐き出す。これで、グロットモンが乗っている以外のゴーレモン全てが消滅した。 シキモンはアルボルモンと戦いながら、数の減ったゴーレモンを見て安堵した。――だが、それが、いけなかった。 「油断大敵」 アルボルモンが、手でシキモンを捕らえて、放り投げた。シキモンは呻いた。そのスキにアルボルモンは、ペタルドラモンへとスライド進化して、引き続きアグニモンとヴォルフモンに攻撃を開始した。 トールハンマーを繰りだそうとしたブリッツモンも、ゴーレモンの攻撃により純平へ戻ってしまう。純平たちは、ふたたび絶体絶命の危機に陥っていた。 NOVEL TOP |