てのひらのせかい
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 空洞の中は、いくつかの部屋に分かれてるようだった。
 想は自分のデジヴァイスを見た。しかし、それはもう光らない。何だったんだろう? と考えていると、泉が「ここに何か、あるんじゃない?」と言った。



「二手に分かれて調べてみようぜ!」


 拓也の案で、拓也、泉、想、ネーモン組と、輝二、純平、友樹、ボコモン組にわかれ、それぞれ捜索を始めた。


「もしかして、ここに想のスピリットとかあったりするんじゃない?」
「え、そ、そうかな……」
「探してみようぜ!」
「オレねむい〜」


 ――みんなが一生けんめい戦って、傷つく姿を見るのもいや。だからと言って、わたしが戦うのもこわい。気が小さくて弱いわたしなんかに、スピリットがあるわけないよ。
 想は一瞬、そんなことを思ったが、口に出すわけにはいかずに黙って二人と一匹のあとを歩く。


泉は、一瞬振り返って、想を見た。いちばん最初のときに比べたら、だいぶ想とは話せるようにはなった。だが、いまいち彼女のことが分からなかった。
 想はあまり自分のことを多く語ろうとはしない。冷たいわけではないのだが、何か壁があるように感じた。
 泉も、泉なりに仲良くなろうとした。同じ異世界にやってきた、女の子の仲間だから。
 ――でも。泉が思うのは、学校での自分だった。学校には自分の居場所が、なかった。自分がどうしても想と仲良くなりたいと望んでも、学校での状況と同じようになってしまうのではないか。泉はそれが怖かった。
 泉が想のことを知らないように、想もまた泉のことなど、まだ何も知らない。だからこそ、泉は知りたいと思った。



 想たちが歩いてしばらくすると、行き止まりに突き当たる。そこには、大きな石碑があった。
 石碑には文字が刻み込まれているが、それは日本語ではなかったので想たちに読むことはできない。


「何、これ――」
「ネーモン、これって、何て書いてあるんだ?」
「あ、ネーモン、寝ちゃってるよ……」


 よくこんな所で眠れるなあと想は思った。
 ――何て書いてあるんだろう――。どうしてか、すごく気になる。
 ふいに、輝二が言っていた『お前もこの世界に呼ばれて来たんだから、何か意味があるんだろ。お前にしかできないこととか、何かあるんじゃないか』という言葉を思い出した。


(わたしに、できること)


 役に立たない、意味はない行為かもしれない。それでも、この文字を読んでみたい――そう思った。


「わたし、ボコモン呼んでくる」


 想はボコモンたちのいるほうへ、走り出した。



*



 一方、輝二たちは、辺りを調べても大きな収穫も得られずにいた。


「にしても、お前、想ちゃんに対しては甘いよな」
「……は?」


 唐突に純平にそう言われて、輝二は呆れ顔になった。
 確かに、あのテレビの森での一件以来、気付けば想によく関わっている。だが別に、輝二は純平が泉に向けるような甘い感情は、想に対して持っていない。ただ純粋に、想を守りたいだけだ。


「た、ただ――あいつ一人だと、危なかっしいだけだ」


 想が突然、電車に乗ってきたのが二人の出会いだった。
 輝二は最初、想には全く興味がなかったのに、一人でいるのが好きだったのに――。気付けば想に接していた。
 蒼い月に照らされた、テレビの森での想の泣き顔が思い出される。あいつを一人にしたら、そのまま消えて無くなりそうな気がしてしまう。どうしてか、そんな儚さが想にはあった。


 ぼとぼと走る音が聞こえてくる。誰かが近づいてくる――現れたのは想だった。


「ぼっ、ボコモン! 文字を、教えて!」



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