てのひらのせかい
空洞の中は、いくつかの部屋に分かれてるようだった。[3/4] 想は自分のデジヴァイスを見た。しかし、それはもう光らない。何だったんだろう? と考えていると、泉が「ここに何か、あるんじゃない?」と言った。 「二手に分かれて調べてみようぜ!」 拓也の案で、拓也、泉、想、ネーモン組と、輝二、純平、友樹、ボコモン組にわかれ、それぞれ捜索を始めた。 「もしかして、ここに想のスピリットとかあったりするんじゃない?」 「え、そ、そうかな……」 「探してみようぜ!」 「オレねむい〜」 ――みんなが一生けんめい戦って、傷つく姿を見るのもいや。だからと言って、わたしが戦うのもこわい。気が小さくて弱いわたしなんかに、スピリットがあるわけないよ。 想は一瞬、そんなことを思ったが、口に出すわけにはいかずに黙って二人と一匹のあとを歩く。 泉は、一瞬振り返って、想を見た。いちばん最初のときに比べたら、だいぶ想とは話せるようにはなった。だが、いまいち彼女のことが分からなかった。 想はあまり自分のことを多く語ろうとはしない。冷たいわけではないのだが、何か壁があるように感じた。 泉も、泉なりに仲良くなろうとした。同じ異世界にやってきた、女の子の仲間だから。 ――でも。泉が思うのは、学校での自分だった。学校には自分の居場所が、なかった。自分がどうしても想と仲良くなりたいと望んでも、学校での状況と同じようになってしまうのではないか。泉はそれが怖かった。 泉が想のことを知らないように、想もまた泉のことなど、まだ何も知らない。だからこそ、泉は知りたいと思った。 想たちが歩いてしばらくすると、行き止まりに突き当たる。そこには、大きな石碑があった。 石碑には文字が刻み込まれているが、それは日本語ではなかったので想たちに読むことはできない。 「何、これ――」 「ネーモン、これって、何て書いてあるんだ?」 「あ、ネーモン、寝ちゃってるよ……」 よくこんな所で眠れるなあと想は思った。 ――何て書いてあるんだろう――。どうしてか、すごく気になる。 ふいに、輝二が言っていた『お前もこの世界に呼ばれて来たんだから、何か意味があるんだろ。お前にしかできないこととか、何かあるんじゃないか』という言葉を思い出した。 (わたしに、できること) 役に立たない、意味はない行為かもしれない。それでも、この文字を読んでみたい――そう思った。 「わたし、ボコモン呼んでくる」 想はボコモンたちのいるほうへ、走り出した。 * 一方、輝二たちは、辺りを調べても大きな収穫も得られずにいた。 「にしても、お前、想ちゃんに対しては甘いよな」 「……は?」 唐突に純平にそう言われて、輝二は呆れ顔になった。 確かに、あのテレビの森での一件以来、気付けば想によく関わっている。だが別に、輝二は純平が泉に向けるような甘い感情は、想に対して持っていない。ただ純粋に、想を守りたいだけだ。 「た、ただ――あいつ一人だと、危なかっしいだけだ」 想が突然、電車に乗ってきたのが二人の出会いだった。 輝二は最初、想には全く興味がなかったのに、一人でいるのが好きだったのに――。気付けば想に接していた。 蒼い月に照らされた、テレビの森での想の泣き顔が思い出される。あいつを一人にしたら、そのまま消えて無くなりそうな気がしてしまう。どうしてか、そんな儚さが想にはあった。 ぼとぼと走る音が聞こえてくる。誰かが近づいてくる――現れたのは想だった。 「ぼっ、ボコモン! 文字を、教えて!」 NOVEL TOP |