生命は其処にあるだけで美しい
[3/4] 皆は、トレイルモンを説得しに向かった。わたしも一緒に行く気力はなかった。 だからわたしは、スワンモンさんと一緒に赤ちゃんを抱えていた。 抱えた子からは、確かに体温が感じられる。デジタル、なんて言うけれどデジモンは生きている。 「すてきな、場所ですね」 「ええ。……厳しい戦いだとは思いますが、どうか、デジタルワールドを救ってください」 「……も、もちろんです」 スワンモンさんは悲しい瞳で私を見つめる。きっと、この人達は闘士の力にすがるしかないんだ。 「あの、……デュークモン、ってデジモンさん、知ってますか?」 ふと、気になって訊ねてみる。するとスワンモンさんは、はっと驚いた。 「ええ、あの騎士のお方でしょう……。以前、ここにも来たことがあるんです」 「そ、そうなんですか!?」 「はい、彼はある時やって来て、デジタマや、子どもたちを見つめていました。……ああ、まさか、ロイヤルナイツということは彼も……」 「そ、それは、たぶん違うと思います」 不安がるスワンモンさんに、わたしは反論した。同じロイヤルナイツ、だけれど彼はデュナスモンやロードナイトモンとは違うはずだ。 デュナスモンは裏切ったなんて言っていたけれど、こんなにひどいことをしている時点で信用できない。 それにしても、デュークモンさんはどういう意味ではじまりの街を見つめていたのか。 と、そこまで考えて、背後から足音が聞こえてきた。ああ、皆が帰ってきたんだ! 「お帰りなさい! 早かったです、……!」 「あ、あなたたち……!」 けれど、振り返ったそこにいたのは、輝二くんたち皆ではなく、ロイヤルナイツだった。 なんてタイミングで現れるんだ。しかも、ここははじまりの街なのに……! 「ルーチェモン様の命により、ここをスキャンする」 「何ですって!? ここははじまりの街ですよ!」 「だから来た。命の神秘をこの我が手に……」 「ふざけたこと言わないでよ……!」 どうしてなんだ。生まれてくる命がなければ、デジタルワールドはより寂しいものとなる。ルーチェモンは、何もない無の世界を望んでいるんだろうか。 デュナスモンは、スワンモンさんの隣にいたわたしに気付いて、ふん、と鼻を鳴らした。 「またお前か……。まあいい、コードとスピリットを奪うまでだ」 「……!」 デュナスモンは手をわたしに近づけた。 わたしは、豆の木村でデュナスモンにされたことを思い出す。恐怖で、足が震えた。 「想さん、下がって! ダウン・トルネード!」 「スパイラルマスカレード!」 「ああっ!」 スワンモンさんの羽毛の嵐が、ロードナイトモンに弾き返され、逆にスワンモンさんが攻撃された。 「スワンモンさん……!」 わたしはスワンモンさんに駆け寄る。 その時、拓也くんたちの声が聞こえてきた。彼らは、今ここで起こっている様子には気付いていない。 「ごめん、スワンモン……トレイルモンのやつら……」 「皆さん、逃げて……」 「スワンモン!」 スワンモンさんは力尽きて、その場に倒れこむ。わたしは、彼女の体を抱きかかえる。瞳を閉じても、表情は、苦しそうなままだった。 皆がわたしたちのもとに来て、ロイヤルナイツの二人と対峙する。 「ここははじまりの街だ! ここをスキャンしたら、デジタマたちがどうなるか分かってるのか!?」 「二度とデジモンが生まれなくなってしまうんじゃぞい!」 「知ったことか。生まれてくるデジモンは、コピーやクローンの方がいい。ルーチェモン様が支配しやすくなる」 そんな世界を支配したところで、何になるっているの。何もない、空っぽの世界じゃないか。 つくづく、この二人とも、ルーチェモンとも話が通じないみたいだった。 「駄目だ、ここのたまごだけはスキャンさせない!」 「身の程を知らん奴だな」 「哀れなものだな」 「たとえ負けると分かっていても、戦わなきゃならない時があるのさ……!」 そう叫ぶ輝二くんの背中が悲しい。 それでも、わたしたちは、彼らふたりにすべてを託すしかない。 「輝二くん、拓也くん……!」 「ああ……!」 「任せとけ……!」 わたしたちの視線の先にいる二人は、デジヴァイスを手にし、進化した。 カイゼルグレイモンに離れていろ、と言われて、わたしたちは植え込みの方へ隠れる。 カイゼルグレイモンもマグナガルルモンも、傷ついている。そのうち二人が殺されるかもしれないと思った。 怖くて、真っ直ぐ立てないくらい足が震える。 「自分の身を犠牲にしてまでデジタマを守るという訳か」 「面白い。何処まで続くか試してやろう」 「どうしたらいいんだ?」 「このままじゃ、カイゼルグレイモンも、マグナガルルモンもやられっぱなしだよ!」 今まで、何度も死にそうな体験をしてきた。けれど、何とか乗り切れることはできた。 けれど、今回は本当に危険だ。――だって、二人が殺されたら、この世界も終わってしまう。 「ロイヤルナイツがあくまでもあそこで戦う気なら、あたしたちがデジタマを運ぶしかないわ!」 「そうだな……!」 「待ってろ、輝二……! すぐ戦えるようにしてやるからな!」 わたしは、震える手でデジタマを集める。その間にも、カイゼルグレイモンとマグナガルルモンが殴られる音が聞こえる。 早くしなきゃ、二人とも、死んじゃう……! 「あたし、もう一度トレイルモンのところへ行ってくる!」 「泉ちゃん!」 泉ちゃんは駆け出す。 わたしは、タマゴを集め続ける。近くにいたプニモンが、不安げにぷう、と呟いた。ごめんね、プニモン。 「アージェントフィアー!」 「ドラゴンズ・ロア!」 「ウワアアアアアッ!」 「ぁ……、」 ついに必殺技にやられた二人に、コードが浮かび上がった。そして、進化が解ける。 どうしてわたしはなにもできないのか。どうして、世界はこんなにも絶望を強いるのか。 このままだと、ふたりが、しんでしまう。 NOVEL TOP |