生命は其処にあるだけで美しい
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 皆は、トレイルモンを説得しに向かった。わたしも一緒に行く気力はなかった。
 だからわたしは、スワンモンさんと一緒に赤ちゃんを抱えていた。
 抱えた子からは、確かに体温が感じられる。デジタル、なんて言うけれどデジモンは生きている。


「すてきな、場所ですね」
「ええ。……厳しい戦いだとは思いますが、どうか、デジタルワールドを救ってください」
「……も、もちろんです」


 スワンモンさんは悲しい瞳で私を見つめる。きっと、この人達は闘士の力にすがるしかないんだ。


「あの、……デュークモン、ってデジモンさん、知ってますか?」

 ふと、気になって訊ねてみる。するとスワンモンさんは、はっと驚いた。

「ええ、あの騎士のお方でしょう……。以前、ここにも来たことがあるんです」
「そ、そうなんですか!?」
「はい、彼はある時やって来て、デジタマや、子どもたちを見つめていました。……ああ、まさか、ロイヤルナイツということは彼も……」
「そ、それは、たぶん違うと思います」

 不安がるスワンモンさんに、わたしは反論した。同じロイヤルナイツ、だけれど彼はデュナスモンやロードナイトモンとは違うはずだ。
 デュナスモンは裏切ったなんて言っていたけれど、こんなにひどいことをしている時点で信用できない。
 それにしても、デュークモンさんはどういう意味ではじまりの街を見つめていたのか。

 と、そこまで考えて、背後から足音が聞こえてきた。ああ、皆が帰ってきたんだ!


「お帰りなさい! 早かったです、……!」
「あ、あなたたち……!」


 けれど、振り返ったそこにいたのは、輝二くんたち皆ではなく、ロイヤルナイツだった。
 なんてタイミングで現れるんだ。しかも、ここははじまりの街なのに……!


「ルーチェモン様の命により、ここをスキャンする」
「何ですって!? ここははじまりの街ですよ!」
「だから来た。命の神秘をこの我が手に……」
「ふざけたこと言わないでよ……!」

 どうしてなんだ。生まれてくる命がなければ、デジタルワールドはより寂しいものとなる。ルーチェモンは、何もない無の世界を望んでいるんだろうか。
 デュナスモンは、スワンモンさんの隣にいたわたしに気付いて、ふん、と鼻を鳴らした。


「またお前か……。まあいい、コードとスピリットを奪うまでだ」
「……!」

 デュナスモンは手をわたしに近づけた。
 わたしは、豆の木村でデュナスモンにされたことを思い出す。恐怖で、足が震えた。

「想さん、下がって! ダウン・トルネード!」
「スパイラルマスカレード!」
「ああっ!」

 スワンモンさんの羽毛の嵐が、ロードナイトモンに弾き返され、逆にスワンモンさんが攻撃された。


「スワンモンさん……!」

 わたしはスワンモンさんに駆け寄る。
 その時、拓也くんたちの声が聞こえてきた。彼らは、今ここで起こっている様子には気付いていない。


「ごめん、スワンモン……トレイルモンのやつら……」
「皆さん、逃げて……」

「スワンモン!」

 スワンモンさんは力尽きて、その場に倒れこむ。わたしは、彼女の体を抱きかかえる。瞳を閉じても、表情は、苦しそうなままだった。
 皆がわたしたちのもとに来て、ロイヤルナイツの二人と対峙する。


「ここははじまりの街だ! ここをスキャンしたら、デジタマたちがどうなるか分かってるのか!?」
「二度とデジモンが生まれなくなってしまうんじゃぞい!」
「知ったことか。生まれてくるデジモンは、コピーやクローンの方がいい。ルーチェモン様が支配しやすくなる」


 そんな世界を支配したところで、何になるっているの。何もない、空っぽの世界じゃないか。
 つくづく、この二人とも、ルーチェモンとも話が通じないみたいだった。

「駄目だ、ここのたまごだけはスキャンさせない!」
「身の程を知らん奴だな」
「哀れなものだな」
「たとえ負けると分かっていても、戦わなきゃならない時があるのさ……!」


 そう叫ぶ輝二くんの背中が悲しい。
 それでも、わたしたちは、彼らふたりにすべてを託すしかない。


「輝二くん、拓也くん……!」
「ああ……!」
「任せとけ……!」

 わたしたちの視線の先にいる二人は、デジヴァイスを手にし、進化した。
 カイゼルグレイモンに離れていろ、と言われて、わたしたちは植え込みの方へ隠れる。

 カイゼルグレイモンもマグナガルルモンも、傷ついている。そのうち二人が殺されるかもしれないと思った。
 怖くて、真っ直ぐ立てないくらい足が震える。

「自分の身を犠牲にしてまでデジタマを守るという訳か」
「面白い。何処まで続くか試してやろう」

「どうしたらいいんだ?」
「このままじゃ、カイゼルグレイモンも、マグナガルルモンもやられっぱなしだよ!」

 今まで、何度も死にそうな体験をしてきた。けれど、何とか乗り切れることはできた。
 けれど、今回は本当に危険だ。――だって、二人が殺されたら、この世界も終わってしまう。

「ロイヤルナイツがあくまでもあそこで戦う気なら、あたしたちがデジタマを運ぶしかないわ!」
「そうだな……!」
「待ってろ、輝二……! すぐ戦えるようにしてやるからな!」

 
 わたしは、震える手でデジタマを集める。その間にも、カイゼルグレイモンとマグナガルルモンが殴られる音が聞こえる。
 早くしなきゃ、二人とも、死んじゃう……!

「あたし、もう一度トレイルモンのところへ行ってくる!」
「泉ちゃん!」

 泉ちゃんは駆け出す。
 わたしは、タマゴを集め続ける。近くにいたプニモンが、不安げにぷう、と呟いた。ごめんね、プニモン。


「アージェントフィアー!」
「ドラゴンズ・ロア!」

「ウワアアアアアッ!」
「ぁ……、」


 ついに必殺技にやられた二人に、コードが浮かび上がった。そして、進化が解ける。
 どうしてわたしはなにもできないのか。どうして、世界はこんなにも絶望を強いるのか。

 このままだと、ふたりが、しんでしまう。

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