わたしは信じ続けている
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 それから必殺技を繰り出していった。けれど、チャックモンが捕まってしまった。そして――、アイスデビモンはチャックモンをなめた。


「チャックモン! ……うっ!」
「フハハハ! カワイイ顔が、つぶれちゃう?!」
「……外道めが! 天浮橋!」


 助けに行こうとしたフェアリモンまでもが捕まり、イナバモンはアイスデビモンの身体だけに狙いを定めて虹を放つ。それによってフェアリモンとチャックモンは解放された。けれど、今度はイナバモンが糸状の氷に絡められ、捕らえられてしまった。

「イナバモン!!」
「ぐあっ」
「よおし、お前も頂こうかな、」


 その瞬間、何が起こったのか理解できなかった。――イナバモンが、なめられ、た。時が止まってしまった、みたいな錯覚に陥った。それから、わたしが、イナバモンがやっと出せた声は。


「っぎゃああああっ!」

 お腹の底からでるような、悲鳴だった。アイスデビモンはにやにや笑っていた。――絶対に赦さない。


 アイスデビモンは翼を凪いで、吹雪を発生させた。身体が冷える感覚をおぼえて身震いする。吹雪のせいで足からどんどん全身が凍っていく。さ、寒いし動けない!


「ちっ……!」
「フフフ! 動けないようにして、一匹ゆっくり切り刻む。グッドアイディア! だろう」
「変態……! 阿保! 莫迦!」


 わたしがこんなに口が荒くなるのも珍しい。いや、正確には話しているのはイナバモンだけれど。
 凍ってしまっていては、アイスデビモンをにらみつけることしかできなかった。でも、凍ることを逃れられた二体がいる。――チャックモンと、レーベモンだ。


「カチカチコッチン!」
「エーヴィッヒ・シュラーフ!」
「ッ!?」


 二体は攻撃した、けれどアイスデビモンは軽々とそれを避け、空を飛んだ。そして、空からわたしたちを見下ろしている。
 二体は人型がだめならば、とスライド進化して、また必殺技を放つ。けれど、アイスデビモンはそれも安々とかわしてしまった。


「イマイチ、面白味に欠けるなァ。……ニィっ」
「……ッ! 逃げるんだ!」

 
 そう気持ち悪く笑って、奴が目を付けたのは、輝二くんと拓也くんだった。イナバモンが逃げろと声を掛けてももう遅い。二人は、アイスデビモンに捕まった。
 ブリザーモンもカイザーレオモンも動揺している。


「……ほう、仲間を盾に取られては動けんのか? 自分より仲間を庇う奴らが時々いるが、貴様らそういうターイプゥ?」

 ならば実験してみよう――、そう言って、アイスデビモンは二人を冷気の結界の中に閉じ込めてしまった。

「卑怯者!!」
「卑怯……、強い者が弱い物をいたぶる。……当たり前のことだろう!!」
「ぐぁっ」

 ブリザーモン、カイザーレオモンが殴られ、飛ばされた。
 ああ、どうしてこの身体は氷漬けのままなんだ。目の前で、皆が苦しんでいるのに。

「フッ、仲間の心配をしている場合じゃないぞ!」
「……! 拓也ッ!」

 結界の下から、イナバモンがやられたものと同じ、糸状の氷がのぼりたつ。そして、それは拓也くんをはじき飛ばした輝二くんに絡みついた。


「うがああああぁっ」
「輝二!!」
「いい声だ。仲間など構うから悪いんだ」


 氷が輝二くんを締め上げる。冷たくて、息ができないほどに、苦しいのだろう。
 悔しくって、イナバモンは身体を動かした。けれど、足元の氷はびくともしない。イナバモンは舌打ちした。その時、アイスデビモンの背後にカイザーレオモンが忍び寄るのが見えた。
 そして、カイザーレオモンは闇の波動技をアイスデビモンにぶつける。


「許さん……!」

 カイザーレオモンはアイスデビモンに体当たりしたけれど、アイスデビモンはそれをかわした。でも、それでよかった。アイスデビモンが避けた先には、結界がある。そしてその勢いで、結界が壊れて二人は助かった。
 カイザーレオモンに逃げろ、と言われて拓也くんは迷っていたようだったけれど、輝二くんに促され二人は立ち上がる。氷に締め上げられたばかりの輝二くんは、よろよろしていた。

「いい眼をしている。いちばん面白いのは、お前のような眼をしている奴を屈服させることだ!」
「グォォッ」

 そしてカイザーレオモンはアイスデビモンに襲いかかる。雪の竜巻の中で、戦いがはじまった。
 わたしたちからは何が起きているのか分からなかったけれど、攻撃にやられたのかカイザーレオモンが落下した。ブリザーモンが援護しようとしたけれど、カイザーレオモンはその申し出を断った。


「俺はいい。皆を……」
「しかし……!」
「急げ!」


 その言葉を受け、ブリザーモンはイナバモンたちに絡みついた氷を破壊した。そして、フェアリモンとブリッツモンはスライド進化した。

「往生際の悪いやつらめ」
「勝負、ありだ」

 こうして、輝二くんと拓也くん以外の皆の体制が整った。

「お前を助けてくれる仲間はいない。俺たちの勝ちだ!」
「何ッ!?」

 ブリザーモンが冷気を起こし、シューツモンが竜巻となって混ざり合う。アイスデビモンの身体が凍っていく。身動きが取れなくなったところで、ボルグモンが砲口をかまえ、イナバモンが手をかざす。

「フィールドデストロイヤー!」
「天浮橋!」

 そして、イナバモンとボルグモンは、何のためらいもなく必殺技を放った。アイスデビモンの身体に、ヒビが入る。シューツモンが「今よ!」とカイザーレオモンに叫んだ。

「シュヴァルツ・ケーニッヒ!」
「ウアアアアアッ!」

 アイスデビモンにデジコードが浮かび上がった。それを見届け、カイザーレオモンはスライド進化する。

「乱されし邪悪な心よ、闇に埋もれて眠るがいい! このデジヴァイスで浄化する! デジコード・スキャン!」

 そしてデジヴァイスにコードが吸い込まれ、アイスデビモンのたまごが空へとのぼっていく。
 輝一くんは進化を解いて、両膝と手をついて浅い呼吸を繰り返していた。わたしがありがとう、と言うよりも先に、彼に手を差し伸べた人がいた。――輝二くんだった。
 輝一くんは、輝二くんの手を取って立ち上がる。少し、二人が近づけた。それだけで、わたしの心はとても安心した。


「……言葉で言わなくても、通じ合ってる、って感じだな」
「さすが双子!」


 よかった。なんだかすっかり安心して、わたしも進化を解いた。
 輝二くんと拓也くんのデジヴァイスも、氷が解けて使えるようになった。辺りも、どんどん氷が水になっていって、寒々しさがなくなる。
 けれど安心したのもつかの間、強い風が吹き荒れた。城の方からだった。そう、まだケルビモンは倒せていない。

「戦いは――まだ終っていない!」

 わたしたちは、城を見上げる。
 最後の戦いの火蓋が、切り落とされた。


130912
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