わたしは信じ続けている
それから必殺技を繰り出していった。けれど、チャックモンが捕まってしまった。そして――、アイスデビモンはチャックモンをなめた。[3/3] 「チャックモン! ……うっ!」 「フハハハ! カワイイ顔が、つぶれちゃう?!」 「……外道めが! 天浮橋!」 助けに行こうとしたフェアリモンまでもが捕まり、イナバモンはアイスデビモンの身体だけに狙いを定めて虹を放つ。それによってフェアリモンとチャックモンは解放された。けれど、今度はイナバモンが糸状の氷に絡められ、捕らえられてしまった。 「イナバモン!!」 「ぐあっ」 「よおし、お前も頂こうかな、」 その瞬間、何が起こったのか理解できなかった。――イナバモンが、なめられ、た。時が止まってしまった、みたいな錯覚に陥った。それから、わたしが、イナバモンがやっと出せた声は。 「っぎゃああああっ!」 お腹の底からでるような、悲鳴だった。アイスデビモンはにやにや笑っていた。――絶対に赦さない。 アイスデビモンは翼を凪いで、吹雪を発生させた。身体が冷える感覚をおぼえて身震いする。吹雪のせいで足からどんどん全身が凍っていく。さ、寒いし動けない! 「ちっ……!」 「フフフ! 動けないようにして、一匹ゆっくり切り刻む。グッドアイディア! だろう」 「変態……! 阿保! 莫迦!」 わたしがこんなに口が荒くなるのも珍しい。いや、正確には話しているのはイナバモンだけれど。 凍ってしまっていては、アイスデビモンをにらみつけることしかできなかった。でも、凍ることを逃れられた二体がいる。――チャックモンと、レーベモンだ。 「カチカチコッチン!」 「エーヴィッヒ・シュラーフ!」 「ッ!?」 二体は攻撃した、けれどアイスデビモンは軽々とそれを避け、空を飛んだ。そして、空からわたしたちを見下ろしている。 二体は人型がだめならば、とスライド進化して、また必殺技を放つ。けれど、アイスデビモンはそれも安々とかわしてしまった。 「イマイチ、面白味に欠けるなァ。……ニィっ」 「……ッ! 逃げるんだ!」 そう気持ち悪く笑って、奴が目を付けたのは、輝二くんと拓也くんだった。イナバモンが逃げろと声を掛けてももう遅い。二人は、アイスデビモンに捕まった。 ブリザーモンもカイザーレオモンも動揺している。 「……ほう、仲間を盾に取られては動けんのか? 自分より仲間を庇う奴らが時々いるが、貴様らそういうターイプゥ?」 ならば実験してみよう――、そう言って、アイスデビモンは二人を冷気の結界の中に閉じ込めてしまった。 「卑怯者!!」 「卑怯……、強い者が弱い物をいたぶる。……当たり前のことだろう!!」 「ぐぁっ」 ブリザーモン、カイザーレオモンが殴られ、飛ばされた。 ああ、どうしてこの身体は氷漬けのままなんだ。目の前で、皆が苦しんでいるのに。 「フッ、仲間の心配をしている場合じゃないぞ!」 「……! 拓也ッ!」 結界の下から、イナバモンがやられたものと同じ、糸状の氷がのぼりたつ。そして、それは拓也くんをはじき飛ばした輝二くんに絡みついた。 「うがああああぁっ」 「輝二!!」 「いい声だ。仲間など構うから悪いんだ」 氷が輝二くんを締め上げる。冷たくて、息ができないほどに、苦しいのだろう。 悔しくって、イナバモンは身体を動かした。けれど、足元の氷はびくともしない。イナバモンは舌打ちした。その時、アイスデビモンの背後にカイザーレオモンが忍び寄るのが見えた。 そして、カイザーレオモンは闇の波動技をアイスデビモンにぶつける。 「許さん……!」 カイザーレオモンはアイスデビモンに体当たりしたけれど、アイスデビモンはそれをかわした。でも、それでよかった。アイスデビモンが避けた先には、結界がある。そしてその勢いで、結界が壊れて二人は助かった。 カイザーレオモンに逃げろ、と言われて拓也くんは迷っていたようだったけれど、輝二くんに促され二人は立ち上がる。氷に締め上げられたばかりの輝二くんは、よろよろしていた。 「いい眼をしている。いちばん面白いのは、お前のような眼をしている奴を屈服させることだ!」 「グォォッ」 そしてカイザーレオモンはアイスデビモンに襲いかかる。雪の竜巻の中で、戦いがはじまった。 わたしたちからは何が起きているのか分からなかったけれど、攻撃にやられたのかカイザーレオモンが落下した。ブリザーモンが援護しようとしたけれど、カイザーレオモンはその申し出を断った。 「俺はいい。皆を……」 「しかし……!」 「急げ!」 その言葉を受け、ブリザーモンはイナバモンたちに絡みついた氷を破壊した。そして、フェアリモンとブリッツモンはスライド進化した。 「往生際の悪いやつらめ」 「勝負、ありだ」 こうして、輝二くんと拓也くん以外の皆の体制が整った。 「お前を助けてくれる仲間はいない。俺たちの勝ちだ!」 「何ッ!?」 ブリザーモンが冷気を起こし、シューツモンが竜巻となって混ざり合う。アイスデビモンの身体が凍っていく。身動きが取れなくなったところで、ボルグモンが砲口をかまえ、イナバモンが手をかざす。 「フィールドデストロイヤー!」 「天浮橋!」 そして、イナバモンとボルグモンは、何のためらいもなく必殺技を放った。アイスデビモンの身体に、ヒビが入る。シューツモンが「今よ!」とカイザーレオモンに叫んだ。 「シュヴァルツ・ケーニッヒ!」 「ウアアアアアッ!」 アイスデビモンにデジコードが浮かび上がった。それを見届け、カイザーレオモンはスライド進化する。 「乱されし邪悪な心よ、闇に埋もれて眠るがいい! このデジヴァイスで浄化する! デジコード・スキャン!」 そしてデジヴァイスにコードが吸い込まれ、アイスデビモンのたまごが空へとのぼっていく。 輝一くんは進化を解いて、両膝と手をついて浅い呼吸を繰り返していた。わたしがありがとう、と言うよりも先に、彼に手を差し伸べた人がいた。――輝二くんだった。 輝一くんは、輝二くんの手を取って立ち上がる。少し、二人が近づけた。それだけで、わたしの心はとても安心した。 「……言葉で言わなくても、通じ合ってる、って感じだな」 「さすが双子!」 よかった。なんだかすっかり安心して、わたしも進化を解いた。 輝二くんと拓也くんのデジヴァイスも、氷が解けて使えるようになった。辺りも、どんどん氷が水になっていって、寒々しさがなくなる。 けれど安心したのもつかの間、強い風が吹き荒れた。城の方からだった。そう、まだケルビモンは倒せていない。 「戦いは――まだ終っていない!」 わたしたちは、城を見上げる。 最後の戦いの火蓋が、切り落とされた。 130912 NOVEL TOP |