わたしは信じ続けている
[2/3] 想たちは爆風によって、大地へと吹き飛ばされた。さすがのカイゼルグレイモンとマグナガルルモンも突然の衝撃には耐えられなかったようで、地上に落ちると彼らの進化は解けてしまっていた。 輝一は、はっとして、打ち付けられて痛い身体をおさえつつ、起き上がる。それから辺りを見渡した。彼のいちばん近くにいたのは、想だった。 「……うぅ、」 想はよろよろと身を起き上がらせた。衝撃のせいかしぶい顔をしているが、無事だったようだ。輝一は安心して、想以外の皆はどうしているかと立ち上がった。 ――と、そこで輝二の姿が目に映り、想も輝二の存在に気付いたらしく二人で話しだした。二人にとって、互いが特別であるということは、新しく来たばかりの輝一にも分かった。 「皆、無事だったみたいね」 「ああ」 泉が立ち上がって、服の砂ぼこりをはらう。輝二も相槌を打ち、想はその横でよかった、と呟いた。輝一は、想を見ていて考えた。 想は、輝一がダスクモンから浄化されたばかりのとき「人間界に戻ったときと、夢で逢った――」と言っていた。確かに、輝一は想には不思議な既視感をおぼえていた。だが、本当に彼女が言っていることが正しいのか? ――自分は納得しきれていなかった。 「ケルビモンは、どこにいったんだろう……」 「パタモン、何か感じるか?」 爆風に飛ばされ、ケルビモンも見失った。拓也は、パタモンなら何か分かるかと思い聴いたが、パタモンはネーモンの耳を引っ張り、遊んでいる。何も感じない様子だった。 「もしかしたら、倒してしまったんじゃ……」 「いや、あれくらいの攻撃でケルビモンが倒れるとは思えない」 あっという間に、闇に呑み込んだ。ケルビモンの強さは、ここにいる誰よりも知っているつもりだった。 「何にしても、アジトは完全に壊れちまったんだ、かなりのダメージは与えられたと思うぜ」 「拓也と輝二のおかげね!」 「二人とも、さすがだよ!」 純平、泉、そして想が言う。想は笑っていた。――ここにいる六人には、信頼と絆がある。素直に、羨ましいと思った。 * 「俺たちだけの力じゃない」 「皆のおかげだ。皆がスピリットをくれて、応援してくれたから」 輝二くんと拓也くんのおかげで、助かることができた。けれど、二人は皆のおかげだ、と言ってくれた。そう言われると途端に照れてしまって、わたしは何だか二人の顔を直視することができなかった。 でも、ずっとこうして輝二くんたちがスピリットを預っているわけにはいかない。実際、拓也くんがそう言うと二人のデジヴァイスからスピリットが飛び出し、そしてわたしたちのデジヴァイスに吸い込まれていく。一つとなっていた世と色のスピリットも、再びわたしのデジヴァイスの中で分離した。 「オレたちの言葉が、スピリットに通じてるみたいだ!」 「おかえり、フェアリモン」 「よかったー、おれたちの出番がもうないのかと思ってたぜ!」 あはは、と笑った。 スピリットはまた元に戻った。けれど、これから先一体どうすればよいのだろう。輝二くんと拓也くんが話し始めていた。その様子を見ていたら、わたしは輝一くんが輝二くんを見ていたことに気付いた。 当たり前だけれど、二人にはまだ深い溝がある。――わたしに力になれることがあったらいいのに。そう思っていると、泉ちゃんが輝一くんの背中をつついて、何か話していた。そして、輝一くんは意を決して輝二くんに話しかけた。泉ちゃん、さすがだ。 「輝二……あの、さっきは」 「ああぁ?! くるですぅ?!」 輝一くんの話が、パタモンによって中断される。何かとは一体なんだろう――と思っていると、寒気がして辺り一面が凍ってしまっていることに気付いた。さらに、氷面のあちこちには、巨大な氷柱が出現した。そしてそれと同時に現れたのは、アイスデビモンというデジモンだった。 「ケルビモンの、仲間だな!」 「ケルビモン? あんな野郎と一緒にしないでもらいたい」 わたしたちが混乱していると、ボコモンが叫んだ。アイスデビモンは、村を破壊しデジモンのデータを食べ捕まった、犯罪デジモンらしい。ずっとここに閉じ込められていたけれど、今の戦いで地下牢が壊れてしまったようだった。 「礼を言わせてもらおう。貴様らのおかげで、退屈な地下牢から、出ることができたわ」 「どーいたしまして」 わたしたちは、満場一致でネーモンをにらんだ。 「人間がデジモンに進化できるなんて知らなかったぜ。貴様らとあいつら、どちらのデータが美味いかな」 あいつら、というのはケルビモンの城にいた、デジモンのデータのことらしい。――ケルビモンに実験台にされ、そして更にはアイスデビモンに食べられてしまったというのか。わたしの心に、ふつふつと怒りが沸き上がってくる。 それから輝二くんと拓也くんが戦おうとしたが、感謝のしるしだとか言ってデジヴァイスが凍らされてしまった。 「ケルビモンと戦うとはまあまあの力よ。お前たちはあとの楽しみにとっておこう、……さて、残りの人間たちはどこまで私を楽しませてくれるかな」 「どこが感謝のしるしなのよっ!」 「この私の手で、じっくりと傷めつけてやろうと申しておる。泣き喚くがいい。どうだ、嬉しいだろう!」 「嬉しいわけないでしょ!」 泉ちゃんが髪をはらって、アイスデビモンをにらむ。そして、わたしはアイスデビモンの話を聞いてひとつの思いが浮かび上がる。友樹くんもそう思っていたみたいで、「あいつ……」と呟いた。 「変態だ!」 「変態……!」 ――と、わたしと純平さんの声が重なった。うん、妙なところで息が合うような気がする。 「お前の……思い通りにはならない! スピリット・エボリューション!」 そして、わたしたちは進化した。わたしはイナバモンになった。わたし以外の皆は、人型だった。 NOVEL TOP |