01

 
誰かに呼ばれている気がして、私はゆっくり目を開けた。


けれども私は再び目を閉じる。何これ?凄く眩しい。光が刺激になって目を刺してくるもんだから暫くは目を開けられなかった。薄っすら目を開けては閉じ、それを何回か繰り返してやっと目が慣れた。

そこで私は新たな違和感に気付く。縛られているわけではないのに身体を動かそうとしても全く動かない。口も乾いてカラカラだ。乾きすぎてて喉がすごく痛い。唯一動くのは目だけ。瞬きと眼球を動かす事しか出来なかった。


何故こんなに違和感だらけなのか半ばパニックになっていると、すぐ近くで男の人の声がした

「…ーーーよ。名前はどの花が好きだろうね?」

私は目だけ動かしてその声の元を辿る。意外にもその人はすぐ近くに立っていた。けれども私が見ている事には気づかずに楽しそうに話し続けている。

「好みとか分かんないから、名前をイメージして花を選ぶの僕ちょっと恥ずかしくてさー。でも綺麗でしょ?」

変な人、そんな印象を持たせる人だった。逆立った白い髪に目元には黒い布を巻いてる。それで見えてるの?と思ったけどその男の人は誰かと話しながら花を花瓶に器用に生けていたから見えてはいるみたいだ。

寝起きで頭の回らない中、その男の人を私はしばらくの間ぼんやりと眺めていた。

やがて私の視線に気づいたのか男の人がゆっくりとこちらを見た。不思議な事に目隠しをしているのに目線が合っていると何故だか分かった。彼はさっきまで笑っていたけど私と目線が合った瞬間、息を飲み固まった。

…ーーガシャン!!

彼の手に持っていた花瓶が落ち、けたたましい音を立てて割れる。その音に驚いた私は声を出そうとして咳き込んだ。

「うっ…ゴホッ…ケホッ」

声の代わりに咳しか出ない。口がカラカラに乾いているからか息をするのさえ苦しく感じる。

「待って」

私が咳き込んでいる間、男の人は近くにあった白い布にペットボトルの水を含ませていた。そしてベッドに腰掛け、片手で私の両肩に手を回して上体を起こしてくれた。急に起こされたからかフラフラして目眩がする。

「これを口に含んでゆっくり吸いながら水分を摂って」

男の人から言われた言葉に私は目を丸くした。

え?何で?ペットボトルの方を飲みたいよ。

そう思ったけど結局は目隠しの男の人に言われるがまま私は口元にある布を咥えて水分を摂った。早く水が飲みたかったし、目が隠れているのになんか威圧を感じてしまって、そうせざるを得なかった。白い布はよく見ると保健室とかで見るガーゼで、何故私はガーゼをちゅうちゅう吸っているんだろう?と思いながら乾いた喉を潤す為にひたすたそれを吸っていた。


口の中が潤ってやっと喋れる様になれたのは大分時間が経った後だった。

「ありがとう…ございます……」

上半身を支えてもらいながら私は男の人を目だけで見上げる。やっぱり身体に全然力が入らない。支えてもらわなければ、私の身体はまたベッドに戻ってしまうだろう。

「名前…」

嬉しそうな、泣きそうな声に私は何も返せずにいた。男の人が発した名前って言葉の意味が分からなかったからだ。

「名前?」

もう一度それを問いかける様に男の人は言う。よく分からなかったので私は聞いてみる事にした。

「名前って何ですか?」

「……君の名前だよ」

「私の…名前?」

「僕の事分かる?」

そう言われて男の人をじっと見つめた。目が隠れて分かり辛いけど、少なくとも目隠しした男の知り合いなんて心当たり無い。

「あなた…だれ?」

私の言葉に男の人は一瞬驚いた表情をして、すぐに目隠しを掴みそれを下げた。逆立った髪の毛が重力で下りて、隠されていた目元が露わになる。彼の素顔を見た瞬間、今度はこっちが息を飲む番だった。

「…きれい」

透き通る様な青、いや水色?澄み渡る大空の様な、ともかく綺麗な瞳だった。睫毛は一本一本長く、作り物の様に精巧でまるで人形みたいだ。綺麗過ぎていて人では無い畏怖さえ感じる。

「これでも分からない?」

「ごめんなさい、分からないです」

「僕は、五条悟。そして君は苗字名前」

苗字名前。そう言われてもピンとこない。でも私の名前は…と思い出そうとしても何も出ない。

「えっと…五条さん」

「悟って呼んで。僕達はタメだし。それに…君は僕の婚約者だから敬語は不要だよ」

「………え?」

“婚約者”

五条さんから出てきた言葉に頭が真っ白になった。今この人なんて言った?婚約者?この人が私の婚約者?頭が付いていかない。いや、もうさっきから全然意味が分からない。

「あ、婚約者って分かる?」

「それは分かります…大人になったら結婚するって事ですよね?」

「正解〜でももう僕達十分大人だけどね」

五条さんは綺麗な顔に似合わずおちゃらけた様に、にっこりと笑う。


身体は全然動かないし、自分を含めて何にも分からないし、目の前の綺麗な男の人は私の婚約者だって言うし、夢なのか現実なのか、今はどっちなのかとうとう分からなくなって来た。

起きたばっかりなのに、こんなイケメンが婚約者だなんてきっとまだ夢の中にいるんだ。絶対この人婚約者じゃない。何も分からないし確証は無いけどそれだけは確信を持って言えた。夢って見る人の深層心理を表すって聞くけれど、私ったらこんなイケメン婚約者が欲しいって思っていたんだろうか。

起きたばっかりなのになんだかどっと疲れた。付いていけないこの状況から私は逃げたくてこれはまだ夢を見てるんだと、とりあえず現実逃避をする事にした。



21.0315




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