呪術 短編 | ナノ

相愛 04  



悟との初対面は衝撃の連続で、同い年なのに初めて見る白髪と大きな身体に驚いて怖そうな人だと思った。

「はじめまして。私、苗字名前。よろしくね」

話しかけても睨んで来るからもっと怖い人だなって思った。それでもこれからの関係を考えると仲良くしなくちゃ、と思って作り笑いを浮かべた。

「五条悟」

もうちょっと愛想良くしてくれてもいいのにと臆病な私はそれを飲み込んでまた笑って誤魔化す。

「よろしくね、悟」

自己紹介をした後もマイナスな印象は残ったままだったから、悟とは上部だけの付き合いでいいや、そんな事を最初は思っていた。





そんな彼への印象が変わったのは悟と2人っきりの任務に赴いた時だった。いつものメンバーでは無く2組に分かれての任務で、夜蛾先生から悟とペアを組めって言われた時は正直不安だった。

不安が的中したのか呪霊が出ると言われている山まで補助監督さんに送ってもらう車内はとても気まずくて、私達が会話を交わす事は無かった。その時の私はまだ呪具を手に入れる前で、今以上のお荷物だったと思う。そんな引け目を感じていたからか悟に迷惑をかけない様にしようって思っていた。


補助監督さんと別れた後、悟と逸れない様に険しい山道を必死で着いて行った。歩いている悟に対して私は小走りで追いかけているのに全く距離は縮まらない。

「待ってよ、悟!」

1人で先を歩く悟に声を掛けても止まってはくれず、首だけ振り返りいつものように悪態をつかれた。

「お前、邪魔。俺1人で祓うから、そこを動くな」

邪魔と言われて思わず私は立ち止まってしまった。悟の邪魔はしたくないけど、任務は2人でやらないといけないし…。立ち止まってる間に悟の姿も見えなくなってどうしようか悩んでいると、突然強い風が私を襲った。

「っ!!」

それが呪霊の仕業だと考えるより前に、突風は簡単に私の身体を浮かせて飛ばす。ジェットコースターの様な浮遊感の後突風はピタリと止み、そして重力に逆らえずに落ちていく。自分では対処出来ないくらい高く飛ばされてしまい、受け身をとっても助かる見込みはない。

落ちていく中、衝撃と死への恐怖から声も出せずに私は深く目を瞑る。けれど刹那強い衝撃の代わりに温かい何が私を包んだ。

あれ?意外と痛くない。どうしてだろう?

まだ浮いている様な感覚にもう死んでしまったのかと、恐る恐る目を開けるとそこには初めて見る焦った表情をした悟がいた。

「何やってんだよ!」

「……えっ…さ、悟?」

悟のサングラスも風で飛ばされてしまったのか、綺麗な顔と瞳が曝け出されていた。今自分がどんな状況に置かれているのか理解できない中、悟の顔を見つめる事しか出来なかった。

「動くなって言っただろ!!」

厳しい言葉とは真逆に私の肩と膝裏に回る大きくて優しい両手に綺麗な素顔、そして瞳。いつもと違う人みたいで戸惑いと困惑が私の胸を締め付ける。

「ご…ごめん、なさい」

だって敵の術式のせいで飛ばされたんだもんとか、私は動かなかったよとか、色々言いたい事あったけど謝る事で精一杯で、それでも頭の中では悟の瞳の色の名前を思い出そうとしていた。そんな場合じゃないのに水色、空色、色んな名前が頭の中を行き来する。

サングラスの隙間から見える瞳は見た事があったはずなのに、悟が苦手でしっかり見るのはその日が初めてだった。綺麗な瞳に釘付けになっていると、いつの間にか地上に降り立っていて、悟に支えながら私も地面に降り立つ。

「何見てんだよ」

「ご…ごめん」

「……今度こそ動くなよ」

悟は私を置いていつの間にか現れた呪霊へと立ち向かって行く。その背中を見送りながら心臓はドキドキと音を立てて暴れ出し、そしてやっと思い出した。


「そうだ…藍白色、だ」


私の呟きは悟に届く事無く、祓われた呪霊の断末魔と同時にかき消される。

昔学んだ藍白色をした悟の瞳は私の心を一瞬で捉えてしまった。助けてくれた、瞳がきれいだった、たったそれだけでと言えば単純だけど、私はそれまで抱いていた苦手意識をすっかり忘れて簡単に悟に恋してしまっていた。




下山した後の帰りの車内は行きとはまた違った緊張感に包まれていた。悟を意識してしまった手前、声を掛ける事にも躊躇してしまう。けれど悟と話がしたいのと助けてくれたお礼はちゃんと言わなくちゃいけないから、勇気を振り絞って話しかけた。

「悟、今日は助けてくれてありがとう」

「別に…」

言葉はいつもと同じでそっけない。けれど前とは違ってそんな言葉だけでも嬉しかった。もっと悟と話しがしたい、もっと仲良くなりたい。一度そう思ってしまったら止められる事は出来なかった。

その日から私は悟と今以上に仲良くしたくて、たくさん話しかけたり、好かれようと一生懸命努力する様になった。


21.1017


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