呪術 短編 | ナノ

相愛 03  



そして忘れもしないあの日。

放課後に話があると言われて期待してその時を待った。

誰もいない放課後の教室、ショートヘアの君を見下ろす俺。出会った時からずっと短い髪の君しか見て来なかったから風に揺れる長い髪も見てみたいとそんな事をいつも思っていた。

向かい合う俺と名前の間に長い沈黙が流れた後、頬を夕陽色に染めた名前が口を開いた。


「あのね、私…悟の事が好きなの」


震える声で紡がれた言葉は俺が求めていた物だった。名前が俺の事を好きなのは気付いていた。俺を見る目、話し方、そして…。知ってて俺からは何も言わなかったし冷たい態度で接していた。

名前の気持ちが分かっていても言葉で伝えてくれて嬉しかった。俺も名前が好きだと、あの時そう言えば良かったのに……俺はあの日を一生後悔する事になる。


「へー。だから何?」

「……え?」

俺の言葉に名前は目を見開く。

自分で言っておきながら、そんな顔させたかった訳じゃなかったのにと、頭の何処かで考えていた。


「えっと…悟が私を好きなら付き合って欲しいんだ」

名前と俺が付き合う。友人から恋人になれるのだと嬉しくて緩みそうになる顔を必死で押し殺した。そして何故か俺はいつもの様に、つい真逆な事を言ってしまった。

「俺はお前なんて好きじゃねーし。お前に好かれるくらいなら死んだ方がマシだわ」

名前に俺の気持ちがバレない様に吐く真似まですると言う愚かっぷり。その時の名前の傷ついた顔に、やり過ぎたと心の中で思っても訂正する事はなかった。傷ついた顔を見せまいとしたのか名前は顔を下に下げる。泣いてしまったのかと慌てて顔を覗き込もうとしたが、それよりも早く名前は口を開いた。

「そうだよね…ごめん忘れて」

顔を伏せたままそう言い残して名前は逃げる様に俺の前から立ち去った。


どうしてあんな事を言ったのか、過去に戻ったら自分を殺してやりたい。もう無理だけど。

照れ隠し、思春期特有の反動形成。そんな言葉では済まされない言動だった。


名前がいなくなった後残された教室で俺は、どかっと椅子に座り1人不貞腐れていた。

自分で言った癖に何で間に受けるんだよ、と名前のせいにして素直になれなかった。追いかけて自分の気持ちを言えば今の状況は変わっていたのかもしれない。



名前に告白された次の日、高専へ向かっているといつも通りに話しかけられた。

「おはよう、悟。課題やって来た?結構難しかったよね」

「……」

名前の言葉に眉を顰める。

なんだよ、その態度。なんで普段通りなんだよ。俺の事好きだって言ったのは無かった事にしたいのかよ。

まだ、気まずい態度を取られた方がマシだった。そっちの方が昨日の事が現実だったと実感できるからだ。だが名前はそんな素振りは一切見せず、まるで告白なんて無かった事にされて腹が立った。


告白から数日経過しても名前の態度は変わらなかった。いつもと同じ態度で接して来る名前にイラついて八つ当たりする様な形でまた更に暴言を吐く。それは以前の物に比べて大分酷い物になっていた。笑って誤魔化してた名前の表情は次第に傷付いた物になって行き、そんな顔をさせるくらいならと名前から話しかけられても無視をする様になった。

あの日以来俺と名前には深い溝が出来てしまっていた。




「傑、硝子、無下限呪術のテストしたいから付き合って」

「いいけど名前も誘いなよ。悟、仲間外れはよくないよ」

「あんな奴いらねぇ」

「ちょっと五条、最近更に名前に冷たくないか?」

「いいの、硝子。私、夜蛾先生に呼ばれているから大丈夫だよ」

本来なら名前にも一緒にいて欲しかった。でも一緒にいたら冷たくしてしまうからそっちの方がマシだと思っていて、俺なりの捻くれた優しさのつもりだった。

3人で外に移動し無下限のテストを行っていると、遠くから視線を感じて皆にバレない様に視線の元を辿る。するとそこには名前がいて1人でこっそりと俺を見ている事に気づいた。遠くからでも名前が俺を見てくれている事に思わず笑みが零れる。

なんだ、やっぱ俺の事好きなんじゃん。

冷たく接しても名前はずっと俺が好きで、ずっと見てくれていると嬉しくて悦に浸ってた。

いつか、素直になって俺から好きと言えば許してもらえる。いつでもこの関係を改善できると思っていた。




そしてその後、傑が地元の集落の非術師を皆殺しにして呪詛師となり、渋谷で最後に会った日と同時に名前も行方不明になった。

初めは傑に拉致されたのだと思っていた。名前は傑の考えになんか賛同しない。それに傑では無く俺が好きなのだから、アイツに着いていくはずが無いと。

だがそれを嘲笑うかの様に傑と名前は一緒に行動している事が目撃され、その時傑を逃す手助けもしていたと報告された。

その内に所在も掴めなくなってしまい、名前の無効化呪術で傑の残穢を消したり、居場所を突き止められなくしているのだと考えられた。もし名前が傑に強制的に行動させられていたのなら、名前は残穢を残す筈だ。だが無効化呪術は自分と他者の残穢を消す事も出来る。

それにより上の連中は拉致では無く彼女の意思で傑に同行していると判断し、苗字名前を離反者として認定した。

名前が離反者と上から言われても俺には信じる事が出来なかった。


「アイツが傑に付いて行くわけねぇだろ!」

「最近任務が忙しくて名前とまともに話せなかったんだよな…。悟、アンタいつ名前とちゃんと話した?」

「……」

硝子の問いかけに言葉が詰まった。

名前とまともに話した記憶なんて無い。

初めて出会ったあの日から好きな気持ちをずっと隠して、一貫して冷酷な態度を取り続けていた。だって名前はずっと俺のそばにいてくれるって思ってたから。

だからいつでもこの関係を変えられると驕っていた。

だがその名前はもう俺の傍にはもういない。


その時に湧いた後悔と言う名の感情は、十年近く経とうとしてる今でも僕の心を捉えて離さない。









窓の外に出ている月を眺めながら、僕は頭を掻く。親友と初恋を同時に失った思い出は苦い物で浸る度に自己嫌悪に苛まれる。

あー、やっぱ今思い出してもクソな展開だったわ。

先日何故名前は帷を下ろす時に無効化呪術で残穢を消さなかったのかずっと考えていた。長い間、残穢すら掴めなかったけど、明日の傑が宣言した百鬼夜行の為だと理解できた。もう隠す必要性が無かったから、残穢を消さなかったんだ。


名前と久々に再会した先日、僕の決意は確固たる物になった。

過去へのケジメとして離反者、苗字名前は僕が殺す。

絶対に。



21.0605

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