■ 04

新たなワード、幽霊。
初めは茶化すつもりでそんな事を言ったのかと思ったが彼女はそんな冗談を言う性格でもなさそうだ。 

罪を逃れる為死を偽ったのか?あの男のように。いや、そんな極端なものではない。第一、罪の存在すら残さない彼女に死の偽装は何のメリットもない。


シギから与えられたあの臓器売買組織の資料を見返す。あの後奴らの管理していた臓器を調べると全て子供の物だと分かった。誘拐された子供もいたらしく別の場所で監禁されていたが全員無事に保護された。5〜6才の子供達は皆、行方不明届けを出された子供達だった。あろう事かあの組織は子供を誘拐しその臓器を売っていたのだ。

20年くらい前から活動していた組織だがよく捕まらなかったものだ。資料には奴らが活動していた時期も記載されていた。


逮捕された組織の連中、天才クラッカーのシギ、幽霊と臓器の為誘拐された子供達。バラバラのピースが少しずつ埋まっていく。


資料を何回も読み返してふとある仮説が浮かんできた。

「まさか……」

たどり着きそうな真実に吐き気がする。

だがまだ仮説の段階だ。真実にたどり着くには駒が足りない。その駒は彼女に会うしかない。新しい居場所の住所が書かれた紙を手に取り背広の上着を着ると車へと向かった。





「出た…」

「随分なご挨拶だな。探したよ」

彼女の部屋のチャイムを鳴らして顔を合わせた所開口一番、人を幽霊のようにシギは言った。

「同じ所にいるとアンタが逮捕しにくるでしょ。嫌よそんなの。それに私は渡り鳥だもの」

「渡り鳥?」

「シギってのは渡り鳥の名前なの」

また新たな情報だ。自分で付けたのだろうか。

不機嫌そうに見えるが今日は顔色が良い気がする。シギは玄関のドアノブから手を放し、自動で閉まっていくその扉を今度は俺が支えた。前回のように拒否が無かったので部屋に入っていいと判断し玄関に入って扉を閉めた所ですぐ近くにいた彼女の左腕を掴んだ。

「ちょっと、いきなり何?放してよ!」

シギは嫌そうに俺の手を振り払おうとするがそれは叶わない。彼女は本気なのだろうがまるで子猫が暴れているようで制圧は簡単だった。ハッカーとしては劣るが力では俺の方が上だ。初めて触れる彼女の腕の細さに一瞬手を放しそうになったが躊躇わず反対の手で彼女の服の袖を捲った。


二の腕の肩の近くにそれはあった。
BCGワクチン、俗に言う判子注射の痕だ。


「これ何かわかるか?」

痕を指差すと彼女は抵抗を止める。シギは首を少し捻りまじまじと見た後、無言で首を横に振った。

「この痕はワクチン摂取をした痕だ。一般的には判子注射と呼ばれる、結核を予防するワクチンだ。このワクチンを打つには独特な注射器で行う。だから痕が残りやすい。しかもこの注射器は日本しか無いらしい。この痕があると言う事は君は日本人だと言う事だ」

シギはその痕を見つめる。あまり目立たないし見えにくい位置にあるから彼女自身この痕があった事に気づかなかったかもしれない。

「君は自分の事を幽霊だと言う。死んだ人間、つまり戸籍がない。最初は出生届けを出していない無国籍かと思ったよ。昔は無国籍児は行政サービスを受ける事が難しかったからな。だがこの痕があると言う事は、君はなんらかの理由で昔死んでいて戸籍が無いと言う事になる」

シギは黙って聞いている。反論が無いのは合っているからだろうか。彼女が何も言わないので続ける。

「そしてあの組織。押収した臓器はどれも小さく子供の臓器の可能性があるらしい。子供の臓器は老若男女、適合条件が合えば誰でも使える。つまり君は過去にあの組織に誘拐されてきた子供でドナーにはならなかったが優秀なクラッカーとして育てられてきた。だが戸籍上、失踪で死亡扱いにされているから自称幽霊だと言っている、違うか?」

年代によっては判子注射を打たなかった年代もあるがシギは若く見える。見積もっても20代前半だからその年代には当てはまらないだろう。それでも彼女の両親がワクチン摂取を受けさせてない可能性もあるのである意味賭けだった。賭けで言えば最初に捲った方に痕があって良かった。痕が残らない人もいるし人によって右だったり左だったり違うらしい。痕が無かったら反対側も見るつもりだったので手間が省けた。

彼女の視線が二の腕から俺の目に移る。しばらくして彼女は軽く笑った。

あの、人を馬鹿にした笑みではない自然な表情だった。

「正解よ、降谷零。まさかこんな痕で分かるとは思わなかった。私が思っているより更に有能なのね。正直に言うと見くびっていたわ。これだけでわかった訳じゃ無いでしょうけど」


初めて彼女から褒められた。そこにはあの高飛車な態度も人を馬鹿にしたような態度ない素直な本心に見えた。


この仕事をしてきてしばらく経つが明かされた真実は稀に見る胸糞悪いものだった。




20.0918

[ prev / next ]

渡り鳥は救われたい



   
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -