■ 02

シギから渡されたUSBはウイルスソフトを警戒したがそれは無かった。彼女が言った通りそこにはボスと幹部の情報があり、海外に逃亡される前に全員逮捕に至った。警察が何十年も追っていた臓器売買組織は一夜にして壊滅した。

そして事後処理の合間にシギについて色々調べた。
シギは確かにあの組織の一員だったようだ。だが僅か1か月ほどしか在籍していた記録しかない。先月ある銀行の顧客情報がサイバーテロによって流出したがそれはシギの仕業だとも判明した。解析班曰くシギのスペックなら海外でも同等いや、おそらくそれ以上の事ができると言っていた。

彼女は自分の事をハッカーと言っていたがその正体は各国の機密機関にも侵入できる天才的なクラッカー。このネット社会では彼女の指一つで戦争さえ起こす事も可能だろう。

その彼女が何故あの組織にいて裏切ったのかわからない。彼女を調べていくうちに現在はとある米花町のアパートに住んでいる所を突き止めた。



警察庁から車を走らせナビが教えてくれた場所でエンジンを切り、外に出て目的地を見上げた。そこは古い二階建ての木造アパートで高層ビルが立ち並ぶこの東都からひっそり忘れ去られているかのようにそこに建っていた。

彼女が住んでいるとされる部屋のチャイムを押す。本当に彼女がいるか不安になるがドアが開き中からシギが出てきて一安心した。彼女は自分の顔を見るなり嫌そうに顔を顰める。

「何しにきたの?降谷零。私を見逃すって取り引きは成立したはずよ」

「あまりその名を外で口にされると困る。入っても?」

シギはため息をつきながら部屋に戻る。拒否が無かったので入っていいと解釈した。和室の六畳一間のその部屋は彼女に似つかわしくないと感じる。日が浅いのか新品の畳の匂いが鼻を擽った。靴を脱ごうとしたが彼女は睨みを利かせ自分の前に立つ。どうやら入っていいのはここまでらしい。

「昭和の映画に出てきそうなレトロな部屋だな。君には似合わない部屋だ」

「ボロアパートって言いたいんでしょ。アンタには関係ない、要件は何?」

「君について色々調べたよ。中々優秀なクラッカーみたいだな」

その言葉に彼女は上目遣いで睨む。どうやら癇に障ったらしい。その姿はまるで子供だ。

「やりたくてやったわけじゃないわ」

「君にどんな理由があっても犯罪だ。僕は君を絶対に逮捕する」

「捕まえてやるって?やってみなさいよ。でも私は絶対に証拠を残さないしアンタ達が私の罪をでっちあげてもそれを跡形もなく消し去ってやるわ。ついでに手元が狂って、警察内部の情報も壊しちゃうかもね」

睨んでいた彼女が一変、今度は笑いながら話し始める。悪戯を仕掛ける前の子供のようだ。彼女の能力ならそんな事は簡単な事なんだろう。警察を馬鹿にしてるみたいで腹が立ってきた。

「そんな事してみろ、僕は君を許さないからな」

怒気と殺気を孕んだ声に少しは怯むかと思ったが彼女の反応は意外なものだった。シギの目は全てを諦めたような凍てついた眼差しをしている。光の消えたその眼にこっちが圧倒されそうになる。

「別にアンタに許して貰わなくても構わない。出て行って」

玄関にいた俺を彼女は無理矢理外に押し出す。

「おい!」

話はまだ終わっていない。まだ聞きたい事が山程ある。

「安心して、そっちが何もしなければ私も仕掛けないから」

彼女はまるで独り言のように小声で呟くと勢いよく扉を閉め鍵をかけた。仕方がないが現段階では強制はできない。話を聞くのはあくまで任意だ。まあいい、また次がある。また後日改めて話しを聞こうと今日は帰ることにした。


後日彼女の家に行くとそこはもぬけの空だった。




20.0905

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渡り鳥は救われたい



   
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