■ 06-01

 
電球で装飾された街中はいつもと違って光輝いて、まるで別世界に来たみたいだった。

光り輝く街並みは、この時期によくあるイルミネーションと言う物らしい。陽が落ちかけた夕暮れでも電飾で明るいせいかこれから夜になる気配がしないし、非日常の景色は心が踊って1人で歩いていても楽しく感じた。


テレビの特集でクリスマスの存在を偶然知った私は零に内緒でプレゼントの下見に来ていた。クリスマスまでまだ結構日があるけど、大切な人にプレゼントをあげる行事だと聞いた私は張り切っていた。前にネクタイをあげた時喜んでいたから今回も良い物のをあげたい。零は優しいからどんな物をあげても喜んでくれるけど、まだ社会に疎い所があるからしっかりと下見をして勉強をしておきたかった。

ここは高価なブランドを扱うお店が軒を連ねるけど金銭的にはそれほど問題は無い。以前は仕事を依頼したい側とされたい側のマッチングサイトに登録していたけれども、最近では個人で仕事を依頼してくれる会社もあって収入も段違いに入る様になった。それを少しずつ貯めていたので、以前あげたネクタイよりも更にグレードの高い物を買える事ができる。値段が全てでは無いけれど、私にとって選択肢が増える事は嬉しい事だった。

零はもしかしたら私がクリスマスとか知らないと思っているかもしれない。彼はそういったイベント事は必ず教えてくれるから私に何も言わずプレゼントを渡してきそうだ。そんな私がクリスマスを知っていて、サプライズでプレゼントを渡したらどんな反応をするだろうか。

『君から貰えるとは思わなかったよ。ありがとう、名前。すごく嬉しいよ』

零は私からのプレゼントを驚きつつも喜んで受け取ってくれる筈だ。服だったりしたらすぐに着てくれるし、食べ物でもすぐに食べてくれて、あげた私にも分けてくれそうだ。

以前ネクタイを渡した時はキラキラ輝いた目が印象的でとても可愛かった。またあの顔が見れるかもしれない。そんな喜ぶ姿を想像すると思わず口元に笑みが零れた。




街路樹に並ぶお店を見渡しながら、どのお店に入るか悩んでいると道路を挟んだ向かいの歩道に1組のカップルを見つけた。美男美女のカップルだからかすれ違う人達から注目を浴びていたけど、私は違う理由で立ち止まり思わず息を飲んだ。

男の方は金髪に褐色の肌、さらに整った顔が目を引く。目立つからか、いつも見ている顔だからか見間違えるわけもなくその男は降谷零だった。その零に密着し腕を絡め隣を歩く女性はプラチナブロンドの美しい髪に大きめサングラスをかけていて、この寒い中美しい身体を見せつけるように胸元が大きく開いた服を着ていた。女の私でさえも見惚れそうになる女性だった。

彼は私に気づかず女性と腕を組み、まるで映画のワンシーンのように優雅に歩いて行った。

彼らが行った方を見ながら私はしばらく呆然としていた。時が止まったかと思う反面、心臓は音を立てて暴れ始める。探偵のクライアントかバーボンの仲間か。彼の仕事は理解しているのに、頭で分かっているつもりなのに、心の中では黒い感情が渦巻いていた。それはグルグルと私の全身を巡りジワジワと蝕んでくる。

なんだか気待ち悪い、どうしてだろう。

まだ明るいのに目の前が真っ暗になった気がした。



私はお店に寄らず早急に家に帰りハロの晩ご飯を早めにあげた。いつもよりたくさんハロを撫でて抱きしめる。そして再び外に出た。何故だか家にいたくなかった。家にいるとあれを思い出してしまうし零と顔を合わせたくなかった。今日彼は帰ってくるのだろうか。いつもは帰って来ない日は寂しいと思ってしまうのに今日は何故だか会いたくなかった。


零に触れられるのは私だけだと勝手に思っていた。零が女の人と腕を組んで歩いているのもショックだったけど、私より彼の隣がよく似合うあの女性が羨ましく感じた。大人な彼に比べて肉体も精神も私はまだ子供だ。私と零は釣り合わないと見せつけられているようだった。

そんな事を考えてしまう愚かな自分に呆れる。

「馬鹿みたい…」

羨ましいとか、釣り合わないとか笑えてくる。零を好きかどうかも分からないくせに。


どこに行くわけでもなくフラフラと米花町を彷徨う。途中雪が降ってきて、落ち込んでいる私にとどめを刺す。今日はとことんついてない、傘を持ってくればよかった。寒くて仕方がなかったけど賑やかなお店に入るより、静かな所で1人になりたかった。歩き疲れて途方に暮れた私は、乗るわけでもない屋根のあるバスの停留所の椅子に座り自分の手元をずっと眺めていた。


たくさんのバスを見送るとしばらくして来なくなった。寒いし、手が冷えて痛いけどそんな事どうでもいい。時間さえ気にならない。あの光景が目に焼き付いていて、得体の知れない感情にのまれて、ただ苦しかった。



「大丈夫ですか?」

誰かに声をかけられてその方向を見るとそこには眼鏡をかけた男性がいた。多分零と同じくらいの年齢だろうか。言葉では説明できないけど、なんとなく零と似ている気がする。周りには私しかいないからおそらく彼は私に話しかけたのだろう。

「大丈夫よ、バスを待ってるの」

「ここのバスの最終便はとっくに終わりましたよ」

なんでそんな事を知っているのよ、面倒くさい。構わないで欲しい、そう言った雰囲気を出しているのに分かっているのかいないのか男が立ち去る気配は全く無かった。

優しそうに見えるけど只者では無いと思う。組織にいたからかソッチ系の見分けはつく。一般人とそうで無い人は明らかに普通とは違う雰囲気がある。降谷零に初めて会った時もそう感じた。更にこの男は色で例えるなら黒だ、抽象的な表現だけど確実に普通の人ではなかった。

「申し訳ないけど今は誰とも話したくないの。アンタには関係ないからどっか行って」

「僕は諦めの悪い男ですから、このまま堂々巡りになりますよ」

どうどうめぐり?知らない言葉だけど私にとっては良い言葉では無いのは何となく分かった。触れてはいけない、そう分かっているけど、話しかけてくる眼鏡の男が鬱陶しくて半ば嫌がらせのつもりで敢えて触れた。

「アンタ普通の人じゃないよね?」

彼は何も答えない。表情は変わらないが雰囲気が変わった。今、私に対して警戒している。何故だかそれも分かった。それは彼と同じように私も普通じゃないからだろうか。

「私も普通の人じゃない。分かっているんでしょう?関わるとロクなことないわよ」

私が彼に対して何か感じるように、彼もまた私に何かを感じてるはずだ。だからこそ彼は私に話しかけたのだと思う。

「こんな夜更けに1人の女性を放置できませんよ」

「いいの別に、もうどうでもいい。これ以上嫌なことなんて無いと思うから」

自分の気持ちに整理がつかない。零に対して何か分からない感情が私を支配している。でもそれが何かは分からなかった。考えてすぎて疲れてしまって自分がどうなったっていいとさえ思えてくる。


「別にどうでもいいなら僕の家に来ませんか?とは言っても僕は居候中の身でして、僕の家というのは些か語弊があるのですが」

いそうろうちゅう?いささか?ごへい?

彼から出る言葉の数々に思わず眉を寄せる。難しい言葉を使う人だ。零ならもっとわかりやすく言ってくれるのに。そう思っていると心の中でため息をついた。零の事を考えたくないのに、やっぱり無意識のうちに零の事を考えてしまっている自分に呆れる。なんかもう疲れた。

私は立ち上がり彼に向き直る。

「私を連れてってもアンタの得には絶対ならないわよ」

「損得で話しかけた訳じゃありませんよ。ただ、貴女が心配で声をかけただけです。それに僕の名前はアンタではありませんよ」


男は左手の人差し指と中指で眼鏡の縁を上げる。

「僕の名前は沖矢昴です」

零と似た普通では無いその男はそう名乗った。




21.0106

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渡り鳥は救われたい



   
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