逃避行 | ナノ
出来心だった。

苗字名前28歳。自分でも思うが普通の人生を送ってきたと思う。けれど半年前、私にも大イベントが起きた。人生初の彼氏である。

「名前さんは不思議な人だね」

彼の口癖はいつもそれで、どこら辺が不思議なの?と聞いても笑って誤魔化されていた。

褐色の肌に金髪の爽やかなイケメン。職業は探偵と喫茶店のバイトをしているらしい。私には勿体ないくらいの人。

けれど彼には多少の違和感があった。
まず、写真に写りたがらない。それなら写真嫌いな人なんだろうと思うがそれは違う。それはもう徹底していた。こっそり隠し撮りしてもすぐにこちらを向きスマホを取り上げられ少し怒った表情で名前を呼ぶ。

「名前さん」

年下の私にもさん付けで呼ぶ優しい声。
内容は言わない。写真を消せとも言わない。だけど消して欲しいのだとわかる。

「ごめんなさい」

「分かってくれるなら返すよ」

ニコリと良い笑顔でスマホを差し出す。私は自分のスマホを操作して彼の写真を消した。私のスマホには削除しても一時的に残るようにゴミ箱に残っているタイプだかそれさえも削除させる徹底ぶり。写真が消えた事を確認し彼は満足そうに、でも少し申し訳なさそうだった。

「ごめん名前さん」 

「いいの、もう」

本当は写真をたくさん撮りたかった。
だけどそれ以上に彼に嫌われたくなかった。

彼に対する違和感はまだある。

以前アルバイト先の喫茶店に行きたいと言った時は同僚に茶化されるのが嫌だからと断られた。だから私は彼のバイト先の名前すらしらないし、こちらから連絡しても何日も連絡が取れない事もあった。

そして1番気になるのは私と彼が付き合っている事自体秘密にしてほしいと言う事だ。周りからしてみれば私はオヒトリサマなので合コンに誘われても適当に誤魔化して避けていた。


付き合い初めはそれでいいと深く考えなかった。ただ彼と付き合えたのが嬉しくて、楽しくて。愛してくれているのはすごく伝わっていたからそれでよかった。

でも、最近になって思うのだ。
会えない日は別の女性と会っているんじゃないかとか、なんで私なんかと付き合っているんだろうとか。
私達が恋人同士と言えない理由を彼は探偵の彼女は狙われやすく危険だと言っていた。私を守る為だとその時は嬉しく思ったが時間が経つにつれ不信感が募っていた。

浮気?それとも本命が別にいるのだろうか?

誰にも言えない関係。
自分でも、バカな女って分かっていた。


だから街で彼を見た時初めて彼を尾行した。
外で会っても声をかけないで欲しい。他人のフリをして欲しいとも言われていた。もちろんその中には尾行もしてはいけないと含まれていたのに。あの出来事がきっかけで不安が募りとうとう彼の事を知りたくなったのだ。



白いRX-7は所有者も相まってよく目立つ。
彼の存在に気付いた私はすぐ近くの路上駐車していたタクシーに駆け込んだ。

「あの白い車を追ってください!できればバレずにお願いします」

なんてドラマさながらの台詞を吐き後を追った。タクシー運転手のおじさんは私の心中を察してか何も言わないでくれた。途中何度も見失いそうになったが、おじさんもプロだったのでなんとか見失わずにいれた。

「お客さん、もしかしたらこの先車少ないから追うなら歩いた方がいいよ。ここで降りる?」

指示器を出していないRX-7は赤信号で止まっている。直進のその先は港だ。何台か車を挟んで尾行していたが港に入るのは彼の車だけ。その先はすぐ海だし、ここで降りて徒歩で探してもすぐ追いつくとおじさんは思ったのだろう。


「降ります。ありがとうございました。いくらですか?」

その瞬間信号が青になる。急がないと見失ってしまうし後ろの車にも迷惑だ。お釣りのやり取りも惜しくなった私は五千円札を1枚置きまたドラマみたいに、お釣りは結構ですと言うと急いで港へと入って行った。


20.0825

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