「君は、何が望みだい?」
「私は――」
それは突然、私の前に現れた。
そして、私の運命を180度も変えた。
「今日は、また一段と荒っぽい戦い方だったね」
「そうかな、いつも通りよ」
キュゥべえを肩に乗せたまま、変身を解けば、私の顔を覗き込むようにしてくるうさぎのような、猫のような生き物の首根っこを掴んで下におろす。
今日は、少し力を蓄えすぎていた魔女だったから、だから少し荒っぽくしないと、じゃないと殺せない気がした。少しでも油断すれば自分が食われることになるのだから。一瞬だって気は抜けないの。
「こんばんは。名前さん」
「……マミ、さん」
「ちょっと、寄っていく?」
ふと、背後に現れた気配に振り返れば、笑顔を向けてくれる尊敬してやまない先輩。私の命の恩人であり、これまでずっと、私を“あっち”の世界で助けてくれた人だ。
優しい笑みを浮かべた彼女の言葉に頷くと、彼女は自分の家に上げてくれる。美味しいお菓子と、紅茶を頂いて、心がほっこりしてくれば、さっきまでの自分を少しでも忘れられた。
カップをソーサーに戻して。膝を抱えれば、マミさんが心配そうに私を覗き込んできた。
「大丈夫?今日のは、少し無茶しすぎだわ」
「マミさん、いないとやっぱ一人で突っ走っちゃって駄目ですね。私」
へら、と笑って見せれば、今日は遅れてごめんなさいね、と謝られてしまった。彼女に謝罪してほしかったわけじゃなかった私は、慌てて両手を顔の前で振る。そうすれば、クスリ、と笑ってくれる彼女に、また一つ心に温かいものが広がる。
「そういえば、あの、マミさんが助けたって二人……えーと」
「ああ、鹿目さんに美樹さんね」
ついこの間、マミさんが魔女から救った二人の少女には、どうやら私たちと同じ素質があるようだ。特に、鹿目という子の方は、何かぬきんでた力があるようで、キュゥべえが一目を置いている。
「結局、なるの……?」
「さあ、どうかしら。ただ、美樹さんの方は、あなたと同じようなことを願いそうね。……その意味をはき違えないといいのだけど」
「!……」
私と同じ願い……?
それは、誰かの為に、自分の一生を捨てるということだ。
私は正直、自分の覚悟を決める前に、事が大きくなりすぎて、そう選択するを得なかった。そうしなければ、私が彼の傍で、耐えられなかったから。どうしても、彼の心を死なせたくはなかったから。
願いを代価に、私たちは魔法少女として、魔女と対峙する。人間を襲う魔女を一人でも多く葬り去ることが、当面の私たちの目標だろうか。私は、マミさんみたいに、多くの人を救いたい、とかカッコいいことは言えないけれど、少なくとも目の前にある大切なものだけは絶対に助けたい。
勿論、マミさんだって、私の前で死なせたりしない。
「彼は、元気にしている?」
「!え、あ…はい。もう、すっかりよくなって」
「そう。それはよかったわ」
私が願ったのは、自分のためではなかった。
大切で、大好きで、失えない人のために。
後悔は、ない。
今、彼が私の傍で笑っていてくれるから、それだけで、いい。それ以上は、何も望まない。望んじゃいけないの。
そう、あの日に、それは心に決めていたこと――。